第14話 僕は何となく理不尽に遭遇する
『コウ様、もうすぐ国境線のリバーの街が見えてきますわ。実はわたくし、この辺りまでは来たことなくて、とても楽しみですのよ』
『コウ様、リバーの街では海の幸が素晴らしいです!前回来たときも堪能しました。干物も新鮮な魚も絶品で、特に貝料理は逸品でした。とても期待出来ますよ!』
――漫遊記か。
旅の目的を完全に忘れて、観光雑誌の紹介みたいな二人の言葉に思わず目を瞬く。
『ハチさん、おギンさん、自由すぎます……』
ここに来るまでに偽名を決めておいた。
万が一、二人の素性を知っている者がいれば面倒だと考え、エドワードからも「国境付近はスパイが多い」と忠告されていたからだ。
アベル君はハチさん。
メアリーさんはおギンさん。
――そう決まったのだが。
『今回の旅が、志の高い旅であることは分かっておりますわ。だからこそ、力まずにゆとりを持って取り組むことで、より良い結果を導けますのよ』
『おギンさんに同じです。旅は肩肘張らず、優雅に楽しむものです』
偽名をつけただけで、自由度が二割増しになった気がする……。
『はいはい、大義名分は分かりました。本当にちゃんと分かっているなら、自由にして良いですよ』
『『は~い♪』』
――この二人、やっぱり分かってない。確実に。
◇
街の入り口が見えてきた。
リバーの街は国境線に位置するため、周囲の空気は緊張感に包まれている。石造りの高い城壁には槍を構えた兵士が立ち並び、門前には列を成す人と荷馬車。商人や旅人がそれぞれ順番を待ち、厳しい目つきの兵士が一人一人を確認していた。
『市街に入る前に身体検査があります。エドワードさんの話では、この国境の街ではスパイが暗躍している可能性が高いそうです。なので、この街ではなるべく大人しく過ごし、準備を整えたらランス王国に向けて出発したいと思っています』
二人、分かってくれただろうか……。
しかし、すぐにおギンが鼻で笑った。
『多分、トラブルに巻き込まれて無事には済まないでしょうね』
ハチさんも真顔で頷き、
『きっと目を離した隙に、困っている人に出会って助けようとして、更に大きな騒ぎになるんです。間違いありません』
――お前が言うな、ミスタートラブル。
『そ、そんなことないからねぇ』
声が裏返った。……無いよね?多分?
◇
正門へ近づくと、やはり国境都市だけあって兵士は武装を固め、数も多い。
門の両脇には弓兵が待機し、さらに屋根の上からも監視の目が光る。
威圧感のある空気に思わず背筋を伸ばした。
列の最後尾に並ぼうと歩を進めたその時――
〈〈〈カーン、カーン、カーン〉〉〉
耳をつんざく警鐘が鳴り響いた。
次の瞬間、門内から兵士達が一斉に駆け出してきた。
砂煙を上げながら素早く包囲の陣形を取り、刃が抜かれ、盾が構えられる。
場の空気は一気に臨戦態勢へと変わった。
明らかに只事ではない。
こちらに向けられる視線は鋭く、ちょっとした動きでも即座に攻撃が飛んできそうな緊張感が漂う。
立派な鎧をまとった隊長らしき人物が一歩前に出て、低く問いかけてきた。
『身分の分かる物はお持ちですか?』
周囲の兵士の硬い表情に比べ、この隊長は幾らか冷静さを保っているように見えた。
すかさず、懐から羊皮紙を取り出す。
『こちらをどうぞ』
それはエドワードから渡された家紋入りの公文書だった。
文面にはこう記されている。
【コウ殿の身分を絶対権とする。些細な事も赦さぬ。何人たりとも絶対に仇なすこと無かれ。王の盾として命ずる。仇なす者の身分を剥奪し全て拘束せよ。――エドワード侯爵】
隊長の目が見開かれる。羊皮紙を丁寧に読み終えると、急いで片膝をつき深く頭を下げた。
『大変失礼致しました。書状を確認いたしました。どうぞお通り下さい』
『はい。ありがとう』
羊皮紙を受け取り直し、無事に市街へ足を踏み入れる。
◇
舗装された石畳を歩きながら、ふとおギンに尋ねた。
『エドワードさんって、そんなに有名な人なの?』
最初は驚いた顔をしていたが、やがて呆れ顔に切り替わる。
『あ、相変わらずの理解力ですわ……。本当に知らずに屋敷へ宿泊されたなんて。エドワード様は宰相を支える内政の柱であり、“王の盾”と呼ばれるほどの存在なのですよ』
ハチさんも横で何度も頷く。
『そうだ、そうだ。エドワード様の名を知らないなんて、あり得ません!』
『知らなかったんだから仕方ないよね? それにしても、さっき兵士たちはなんであんなに慌てて飛び出してきたんだろう?』
二人同時に、半眼とため息。
『それは――カクさん〈ドラゴン〉を連れているからですわ』
『…………』
当たり前だろ、という目でハチさんに見られる。
『はぁ~』と揃った溜め息までいただいてしまった。
やっぱりドラゴンは珍しいのか。いや、そりゃそうだ。
◇
市街地に入って大通りを進み、宿を探していたところだった。
賑わう露店の間を抜け、荷馬車の往来に気を取られていたその時――
一台の大型馬車とすれ違った。
立派な紋章入りの黒塗り馬車。
通り過ぎる……と思いきや、ギィと音を立てて停車した。
扉が開き、中から一人の男性が降りてくる。
背筋を伸ばし、無駄のない足取りでこちらに歩み寄ると、朗々と名乗った。
『私はキーン伯爵の家臣、ケインと申す。伯爵様の命により――その〈ドラゴン〉を徴発する』
『『『は??』』』
耳を疑う言葉に、一同が固まった。
『言ってる意味が良く分からないのですが』
そう答えると、ケインと名乗った男は涼しい顔のまま続ける。
『伯爵様の命により、そのドラゴンを差し出せと言っておる。我が国家のため有用に使ってくれようぞ』
――うぉおおおお……。
ついに来た。
来てしまった。
世界初の“理不尽イベント”。
しかも相手は貴族。――理不尽貴族。
胸の奥がざわつき、妙な高揚感が湧いてくる。
オラ、ワクワクすっゾーー!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます