「星屑のパラドックス」

Noname

プロローグ 未来の声


 夜の校舎は静かだった。窓から差し込む街灯の光が廊下を白く照らす。

 でも、私にはそれ以上の“音”も聞こえていた。

 明日の笑い声、来週のため息、一年後の悲鳴――


 生まれたときから、私は「未来の声」を拾ってしまう。

 止めることも、消すこともできない。


 だから私は、ずっと一人だった。


 放課後、屋上で彼に出会うまでは。


 夕暮れの空を背にして、彼はフェンスに寄りかかっていた。

 制服姿なのに、どこか別の世界にいるような佇まい。

 髪に光が当たり、まるで背中に小さな星が宿っているように見える。


「やぁ」

 彼は軽く手をあげた。


 息を呑む。彼からは未来の声が一つも届かない。

 ――この静寂は、初めて感じる安らぎだった。


「俺の“未来”を、一緒に作ってくれない?」

 その言葉だけで、私の世界が少しだけ動いた。

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