第3話 真犯人

「……ここ、どこ?」


未来はゆっくりと目を開けた。

さっきまで確かに証拠品置き場にいたはずだ。だが目の前に広がっているのは、コンクリートの壁に囲まれた薄暗い室内――工事現場の仮設事務所のようだった。


むっとする油と鉄の匂い。天井からぶら下がった裸電球が、ぐらぐら揺れている。


「夢……? いや、でも」


耳をつんざく悲鳴が響いた。


「いやぁっー!!」


未来の心臓が跳ね上がる。

悲鳴の方向に目を向けると、扉が開き、血相を変えた一人の男が外に駆け出して行くのが見えた。


「……っ!」


顔を見た。ほんの一瞬だったが、その横顔を――未来は知っていた。

現代のニュースで見ていたスーツ姿の男。汚職疑惑を抱えながらも、今も国会議員として名を連ねる人物。


――小笠原議員。

まだ若く、だが間違いなくその男だった。


未来の視線は自然と室内に吸い寄せられる。

そこには、若い女性が床に倒れていた。白いブラウスが赤く染まり、既に息はないように見える。


「……嘘、でしょ」


恐怖と混乱で、体が固まる。

咄嗟に、未来はポケットからスマホを取り出そうするが見当たらず、体中のポケットをパタパタはたき出した。


(……証拠品置き場は、スマホ持ち込み出来ないから、デスクに置いてきたんだった)



ジリリリリリン!!

工事現場の事務所の電話機がけたたましく鳴り響いた。


「……?!」


血の気が引く。膝が震え、呼吸が乱れる。

立ち去った副町長の後ろ姿を追うこともできなかった。こんな身元不明の私が、今ここにいたらマズイ──未来は直感した。


「……なんとかしないと。あの人を捕まえないと」


必死に心を落ち着け、未来は決意を固め事務所を出た。

その時、工事現場の壁に貼られたポスターが目に入る。


【次期町長選 現副町長 小笠原 永治】

投票日は、平成12年9月9日


未来は唇をかみしめる。

――やはり、間違いない。あの男だ。


だが、この時代で「未来から来た」と言って信じてくれる人はいない。

証拠もない、身元もない。


「どうすれば……?」


途方に暮れながらも、ふと脳裏に浮かんだ。


――父。


子供の頃、父に聞いたことがある。刑事になりたての頃は、隣町の警察署に配属されていたと。


未来はポツリと呟いた。


「……お父さん」


心臓が高鳴る。


「父さん……あなたなら、聞いてくれるかもしれない」


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