第34話 曖昧
俺ができるだけ音を立てないように玄関の扉を開けると、玄関に座り込んだ帳くんがいた。
「あっ。ただいま。」
俺が気まずそう言うと、帳くんはぱっとすぐに振り返った。
「隼人くん!すみません、さっきのことは私が悪かったんです……。」
帳くんは申し訳なさそうに謝ってきた。
もしかして、帳くんは俺が家飛び出してからずっとここで待っていてくれたのだろうか?
「私が頑固で隼人くんの考えを受け入れられなかったのと、道徳を学んでいなかったせいなんです……。」
「それは全然いいんだけど……。あの大変なことがあって……。」
「どうしたんですか?そういえば、どこかの喫茶店が爆発したらしいんですけどその件ですか?」
「それも関連してるんだけど……。えっと、とりあえず、魔王を名乗る不審者に会ったんだよ!」
俺が魔王という言葉を発すると、明らかに帳くんの瞳が揺らいだのがわかった。
「その男の見た目や、特徴は分かりますか?」
いつもと変わらない落ち着いた声色だが、どこか不安げな様子を含んでいた。
「性別は男。見た目は黒髪で銀色の瞳。黒いロングコートを着てて、ずっとニコニコ笑ってる。
俺は思い出せる限りのことを帳くんに話した。
俺の話を聞くと帳くんは大きくため息をついた。
「そいつは魔王で間違いないです。」
と断言した。
「マジかぁ……。魔王を自称するヤバいやつかと思ってたんだけど……。」
「他に覚えていることはないんですか?あとどこで会ったんですか?監視カメラがあるなら確認しないと……。」
帳くんは焦っているのか、いつもよりも早口だった。
「覚えてること……。あっ!そう言えば録音してたんだよね。」
俺はポケットからスマホを取り出し、帳くんに渡した。
「これで話している内容も分かりますね。いい判断ですよ。」
「それで、会った場所は通学路の喫茶店なんだよね。あそこに監視カメラなんてあったっけ?」
「それはあとで確認します。とりあえず、家の中にいてください。訓練は中断します。私はこの事を怪異課に連絡してくるので。」
帳くんは足早にその場を去ろうとするので俺は引き止めた。
「ちょっと待ってよ!帳くん。」
「どうしましたか?」
「魔王は封印されてるけど、魂だけは逃げたって。魔王が教えてくれたんだ。どうして今まで教えてくれなかったの?」
帳くんは視線を落とし、気まずそうにポツリポツリと語った。
「それは……。まだ教えなくても大丈夫だと考えていたからです。今まで魔王に動きが全くなかったので……。魔王が動くか、隼人くんが勇者として完成する時に教えようと思っていたんです。」
「じゃあ、もう教えてもらってもいいよね。魔王のことについて。」
俺はまっすぐに帳くんを見つめた。
少しの間帳くんは沈黙していたが、ようやく決心がついたのか目線を上げ俺と目が合った。
「わかりました。魔王の事についてお話しします。話す前に連絡だけさせてください。湊様の部屋で待っていてもらえますか?」
「……わかった。」
俺は別に帳くんを信じていないわけではない。
でも、その曖昧な態度が俺の不安を増大させる。
本当に話してくれるのだろうか?
湊と俺を合わせることで、この話を忘れさせようとしてるのではないのか?
いや、帳くんを信じよう。
今はそうするしかない。
俺は考えを巡らせながら、湊の部屋に向かった。
湊の部屋の前に立つと扉をトントンとノックした。
足音が聞こえ、扉が開かれた。
扉を開けたのは湊ではなく、詠悟さんだった。
「隼人様……!どうかしましたか?」
詠悟さんは俺が湊の部屋を訪ねたことに驚いているようだ。
「帳くんにここに来るように言われました。それで、湊はいますか?」
俺がそう尋ねると、詠悟さんは気まずそうに目線を落とした。
「いるのですか……。少々、手が離せない状況でして……。」
俺が部屋の中を覗くと、勉強机に突っ伏している湊がいた。
その机の上には夏休みの宿題が散らばっていた。
「すぅ……。夏休みの宿題をやってなかった感じですか……。」
俺は全てを察した。
湊は勉強がかなり苦手だ。
だから、夏休みの宿題を後回しにしていたのだろう。
あと1週間しかないというのに……。
「その通りです。それで、朝からやっていたのですが……。もう脳の可動域を使い切ったと仰ってずっとあのままです……。」
詠悟さんはお手上げと言いたげに、首を振った。
「俺も手伝いますよ。ちょうど手が空いているので。」
「本当ですか!とてもありがたいのですが、隼人様の宿題は終わっているのですか?」
詠悟さんの表情には、喜びと不安が入り交じっていた。
「はい。俺は夏休みの宿題はすぐに終わらせる派なので、もう終わってますよ。」
「それは良かったです。では、湊様のことはお願いします。私は息抜きのおやつを準備しますので。」
詠悟さんは笑顔で部屋を出ていった。
俺は突っ伏している湊の隣の席に座った。
「湊。どうしたの?疲れちゃった?」
俺がそう尋ねると、湊は首だけを俺に向けた。
「もう無理……。頭が爆発しそうなんだよ……。数学とか人の頭を壊すための兵器なんじゃないの?」
湊の顔は完全に疲れ切っていて、勉強なんてクソ喰らえみたいな不満を感じた。
「そっかぁ……。じゃあ、数学はやめよう。違う教科をやろうよ。例えば化学とかさ。」
湊はガバっと体を持ち上げて
「化学なんて、数学と同じぐらいクソだよ!なんだよ元素なんて覚えられるかぁ!スイヘーリーベーボクノフネってなんだよ!呪文かよ!」
叫び始めた。
「どうどう。落ち着きなさい。じゃあ、それもやめよう。ほかに何が残ってる?漢字とかはどう?」
「僕は暗記とかできないんだーい!」
湊はぐずり始めてしまった……。
これは重症だ……。
「そっかぁ……。じゃあ、今日の勉強はやめとく?疲れたなら休んで明日からまたやろうよ。」
「でも、早くやらないと……。最終日に勉強漬けにされるじゃん!」
「そう思ってるなら、頑張ってやろう!」
俺がそう鼓舞すると、湊は渋々と言った感じでシャーペンを握った。
「わかったよ……。じゃあ、気を紛らわすために面白い話をして欲しい。」
「面白い話?ずっと一緒にいるから特に話すことない気がするけど……。強いて言えば今日、魔王にあったことかな。」
一ーパキィンッ、と乾いた音が響いた。
俺が湊の方を向くと湊がシャーペンをへし折っていた。
「えっ?湊?」
俺の頭は?で支配された。
「その話……詳しく聞かせてくれない?」
湊の瞳は冷たく鋭く光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます