2本目 わたしと一緒に動画をみよう!配信裏話〜
「むぅ〜それにしても、今回も全然バズらないな〜。盛り上がらないし、観てくれてる人も少ないしー。あーむ」
ワクドナルドのカウンター席に並んで座り、俺のノートパソコンで一緒に動画を観ていた女子は右耳にはめたイヤホンを外すと、ポテトを咥えたままモグモグと上下させる。
「まぁ、
「あー! ひどーい! むぅ〜、人は小2の洋平君の塊なんだよ〜」
「承認欲求な。誰だよその子」
「あ、それそれ〜、えへへー」
アホな彼女の名前は
ポニーテールと、つるっとしたおでこがチャームポイントの現役女子高生NewTuberだ。
チャンネル登録者数は314人。まだまだ底辺だが、始めて二週間でこの数字は彼女のポテンシャル、しいては容姿のおかげだ。登録者の九割は男だし。
「でも、わたしってほら? あんなおっきなモンスターを倒せるくらい強いわけだし? このまま行けばちょー実力派美人ストリーマーとして人気になるだろうなぁ〜」
「美人?」
「もぉ! ここは冗談でも美人だねって言うもんだよ! 女心わかってないんだからぁー!」
「吾妻さんは美人というより可愛い系だろ」
「……っ! むふぅ、めちゃくちゃわかってるじゃーん」
頬を膨らませてそっぽを向く吾妻。
顔色も赤くなっているし怒らせてしまったか。タレントの機嫌を損ねては、裏方としては失格だな。
「まぁ、ちゃんと人気になれるように、僭越ながら頑張らせていただくよ」
「おぉ〜言うねぇ〜。さすが、カメラマン兼編集者兼マネージャーだね!!」
「過労死するわ」
「そのための今日の報酬のハンバーガーでございます。こちら、お納めくださいぃ〜」
……たった120円のシンプルバーガーのみ。せめてセットだろ。何でお前はセットに加えて、ちゃっかりナゲットまで頼んでるんだ。
「人気になったら焼肉連れて行くからさ! モンスターのお肉食べられるところあるんだよー!」と出世払いを約束してくれたが、頑張るのは全部俺だ。まだ先の話だが、収益の配分はどうするつもりなのか。
まぁ、別に俺はお金が欲しいわけではないが……。
「ふっふ〜ん。あんなの倒したらもう怖いものなしだよね。もっと難しいとこ行っちゃおっかな〜」
調子に乗っている吾妻だが──彼女は何も気付いてない。
あの巨大な
──俺だ。
接合部や軸となる部位を、その辺に落ちていたダンジョン産の小物をカメラ外から投げつけて削っておいたのだ。まるで攻撃の反動に耐えられなかったと見せかけるために。
面倒なことになるからと、吾妻にも視聴者にもバレないよう気にかけているが……ここまでドヤ顔されると、ちょっと普通にイラつく。
「明日からまた学校かー。放課後、いつものとこで待ってるからね。じゃあねー!」
自転車に乗った吾妻は全速力で夜の街中を漕いで行った。
……結局一本もポテトを譲ってくれなかったな、と彼女の背中を見届けながらそう思った。
◇ ◇ ◇
──あの日から17年
日本各地で突如発生したダンジョンの存在は恐怖の対象となったが……それはすぐに人々の冒険心をくすぐった。
まだNewTuberという単語がなかった時代。
一人の男がダンジョン内部を勝手に動画配信し出したことから、この物語は全てが始まった。
金と名誉を求める者
純粋にダンジョンという異界を楽しむ者
ストイックに自分の限界に挑む者
配信を通じて、みんなを楽しませる者
今、世界一バズりにバズっている職業が、そう──
〝ダンジョンストリーマー〟
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます