明晰夢

UMA未確認党

明晰夢

 〇月△日。A市のXショッピングモールで傑作爆弾が爆発するだろう。震えて眠り給え


 俺は某ネット掲示板にその内容を書き込んだ。当然こんなことをすれば冗談でもお縄になるだろう。すぐに警察が家を訪れた。


「アンタ何してんのよ!」


「俺は悲しいぞ。何でお前がこんなことを……」


 母親は泣き崩れ、父は呆れて俺を殴る気もなくなったようだった。そのまま俺は警察に引きずられていく。


 俺の人生は終わりだ。



 とでも思うだろうね。だが俺は違う。俺の意識は闇に消えていく。


 ハッ!


 俺は大学のソファの上で目を覚ました。夢かぁ……悪い夢を見た。


「どうでした?」


「あぁ悪い夢だったよ。爆破予告したら警察が来やがった」


「でもたかが夢でしょう?現に今の貴方を誰も指名手配していないんだから」


 女性が俺の方に向かってくる。手には錠剤を持っている。



 最初は信じられなかった。


 俺には友も恋人もいない。一人暮らしの中ただ惰性で大学の講義を受けて帰るだけ。そんな生活だった。ただ心の中には何か悪いものがこみ上げるのだった。


 ある日そんな俺がいるラウンジに同大学の薬学部だという女が現れた。良い薬があるという。


「私秀峰大学薬学部4年の夢屋花梨と言うものです」


「エリート様が何の用で?」


「貴方。心に闇があるでしょう。この薬で解消してみませんか?」


「悪いが俺はその手の薬に手を出す気はねぇよ」


「あぁその心配でしたら結構です。これは違法な薬品ではありません何なら今後の社会に大いに役立てようというものなのですから!」



 彼女は話し続ける。


「ストレスを解消するには破壊するのが一番です。殺人でも誘拐でもやりたいことを何でもすれば良い!」


「だがそれをするとお縄になるじゃねぇか。イエスロリータノータッチって言葉知ってるか?」


「えぇそしてそれはネット上でも同様。匿名でも暴言を吐けば特定され捕まる時代です」


「それでどうしようって言うんだ」


「簡単じゃないですか。誰にも法律にすら干渉されない空間があれば良い」


「そんなもんあるもんかこの世界に法律がある限りどこかの罪に引っかかるだろうよ」


「あるじゃないですか。絶対干渉されない世界が……」


 そう言って彼女は俺の頭を長い指で突く。


「頭の中です。ここではどんな物騒なことを考えようが捕まることはありません。実行に移したら別ですが。まぁもっと具体的なことを言えば夢ですね。夢を見るメカニズムは分かり切っていませんが脳が関わっています」


「まぁそうかもな……」


「そこでこれです!ウチの教授が発明したこの薬はあなたを夢に誘い明晰夢を見せることができるのです!」


 彼女は平たい胸を思いっきり張った。


「信用できるのか?」


「信用できますよ。現に私は夢の中ではEカップですからね!」


「は、はぁ……」


「とりあえず試すだけでも良いですから。ほら向こうに丁度ソファがありますよそこで寝ておきましょう」


 俺は断れないまま薬を飲んでしまう。これには睡眠を誘発する効果があるらしくすぐ眠りについた。


 そして冒頭の場面に至る訳である。



 効果を実感した俺は二つ返事でこの薬のモニターになることにした。


「これ貰うよ」


「あ、ありがとうございます」


 彼女はぺこりと頭を下げて去っていった。俺も同じタイミングで去る。


「あ!この薬使い過ぎないようにしてくださいね」


 俺は彼女の警告を話半分に聞いていた。



 電車の中、目の前にスマホを弄るショートカットの美少女が立っている。

 可愛い……俺はそう思い心の中に邪な考えが浮かんだ。


 俺の手は無意識で動いていた。彼女の尻を触る。いわゆる痴漢である。


「ひゃう!何なんですか!」


 彼女は小さく叫んだ。俺はそのまま手を動かしていく。


「悪いですけど僕男ですよ……」


 手を前に持っていくとなるほど女の子には本来ついていない物が付いている。男の娘だ……俺は余計興奮した。


 しかしそれも長くは続かないすぐに隣にいた金髪のサングラス男に腕を掴まれる。


「おいテメェこのチビに何しやがるんや!」


 男の力は強く騒ぎを聞きつけた他のメンバーも集まる。



「ちょ、ゆー君触られてる?!」


「しかも泣いてんじゃん許せん!」


「うっ……脇坂さん、吉川さん助けて」


「二人に頼まんでも俺が駆除してやるよ!」


 金髪男に掴み上げられ電車の扉から放り出される。そろそろ起きるか。



 俺はまたベッドで起きた。


 すぐに手元のスマホで確認する。俺のいつも乗る電車は平和に運行していた。


 その後もテストを堂々とカンニングしたり、近くにいたヤンキーをボコボコに殴り倒してやったりした。俺の生活はこの薬と表裏一体になったのだった。



 一週間くらいたったころだろうか。俺の家にさっきの彼女が訪れた。


「お、どうです?この薬は効果あります?」


「あぁ効果あるよ!お前も来たのか?」


 そう言って俺は彼女の手を掴む。


「え?」


 見れば見るほど彼女は美人だ。こんなの誘ってるとしか思えない。


「俺の家に上がれよ。汚いけど」


「いえ私薬の効果を尋ねに来ただけで後でバイト行かないとなんで……」


「ここは俺の夢の中だ!バイトなんて現実に無いだろ?」


「も、もしかして混同……」


「コンドーム?そんなもん要らねぇだろ!夢の中なんだから赤ちゃんも架空だろ!」


 俺は彼女を乱暴にベッドの上に投げる。


「さぁ楽しもうじゃないか!」


「ちょ、止めて警察呼びますよ……」


 俺は彼女のスカートをめくった。平たいとは思っていたが最低限育ってはいたらしい。そしてその中身を御開帳……と言ったところで



「突入!」


 中に蒼い服を来た人々が乱入してきた。警察!束になってかかって来い!

 俺は警察に殴りかかっていった。


 俺はあえなく足を払われ、腕に手錠をかけられた。


「○時×分。不同意性交で逮捕!」


 俺はそのままパトカーに押し込められた。



「アンタ何してんの!」


 面会室で両親と向かい合う。


「大丈夫さすぐに覚める」


「何馬鹿なこと言ってんだテメェ!寝言へ寝て言いやがれ!」


 父は面会室のガラスを殴りつけようとして後ろの警官に止められる。


「寝言ってこれは寝言じゃないか」


 俺は二人をあざ笑った。



 ところでこのやたらリアルな明晰夢はいつ覚めるんだ?

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