第6話 ゴモリー

捕まえた人間を三人、集落へ連れてきたが、少々迂闊だったか?


ここには死んでいた二人と我の意思の元、明確に殺害した人間一人がいる。


生きた人間がいてはゾンビにするのもやっかいだし、そもそも死体をここにおいておけば、復活を願われないとも限らん。早急になんとかせねば。


以前の我なら食えば良かったのだがな。


今は人間を食べる気など起きん。


跡形もなく処理するには贄にするのが一番だな。

生贄ではないから効果は落ちるが、三体あればそれなりの【可能性】となるだろうからアークデビルぐらいならなんとか召喚できるのではないか。


ひとまず三人を空いてある建物に監禁する。といっても今は二人は寝たままだし、もう一人は恐怖で固まっているようなので道中話しかけられることもなかった。


まあすぐとなりでコボルドゾンビが牽制しておるし、ゾンビスネークが首筋におるからな。この状況で我に話しかけるような度胸があるものはそうそうおらんだろう。


「しばらく寝て待つが良い」


我はそう言ったつもりだが、ほとんど声がでなかった。


魔法もほぼ詠唱なし、したとしてもつぶやきのみ。

他に会話する相手もおらんかったからなぁ。


この体で声を出しなれていないし、仕方ないな。


通じていないかもしれんが知ったことか。


なにか言おうとした男を制し、〈スリープクラウド〉をかける。もうすぐ〈マジックロープ:バインド〉が切れるだろうが、寝ている二人はすでに横にして安定しているのでそのまま眠り続けるだろう。


「〈スリープクラウド〉」


霧のような煙が部屋に広がり、男の目がゆっくり閉じる。


この男も眠れば、しばらく時間が稼げる。


結局男は無言で眠りに落ちた。これで良い。


建物を出て、ゾンビどもに中の者を外に出さないように命令する。


出た場合は捕らえて戻せ、とも。

野良のゾンビでは出来ないだろうが、我がゾンビにし、支配下にあるゾンビなら、本能を抑えてそれぐらいは出来る。


さて、アークデビルか、誰を召喚するべきか。考えながら三人の死体を保管している建物に入る。


状態は良い方。


女は顔を潰されているので若干贄としての価値は下がるだろうが。


小さい男はおそらく失血死かショック死、戦士の男は弱っているところへの魔毒であるので、価値が下がることはないはず。


もちろん生贄ではないので魂の分、価値は著しく下がっているが、そこはもうしょうがない。


知識系、それに今後はあの男どもを任せられるやつが良いな。ゴモリーあたりか?


額の魔石をさらけ出し、召喚魔法を執行する。


我の魔力ならば儀式も必要ない。


球体の次元の歪みが現れ、三人の死体が吸い込まれて消えていった。歪みが渦巻き、空気が震える中、ゴモリーの分魂が流れ出る。


三人の【可能性】は我の召喚魔法によりゴモリーに吸収された。その代わりにゴモリーは我に分魂を送るのだ。


「我が名はゴモリー。汝の召喚に応じよう」


三人の死体があった場所に一人の、人間にしか見えない女が現れてそう言った。


「ゴモリー、よろしく頼む。我はアルデリウス、魔王である」


「あら、可愛らしい魔王様ね。人前でもその名でいいのかしら?」


「そうだな……、我の名を覚えているものもおるだろうしな。では人前ではア  リ スとでも名乗ることにしよう」


「分かりました、アルデリウス様。ではわたくしは モリーとでも」


「汝は我がこの姿となって初めての配下の魔属である。今後魔将を創造したり他のゴーティアを召喚するやもしれんが、汝の地位は約束しよう。役立ってくれ」


「もちろんですわ、役立つために召喚に応じたんですもの」


モリーの目が、集落の外の気配を捉え、わずかに細められた……。

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