第2話 裸で出歩く
封印地から逃れることが出来たのはいいが、先のことは何も考えておらんかった。
肉体も大幅に弱体化してしまっておるし、すぐに世界征服に乗り出すことは出来ないだろう。
まずはこの弱々しい体を何とかせねばな。
今は一糸まとわぬ姿だ。
森の中を裸で歩く人間の少女などおらぬはず。
なんとかしたいところだ。
そういえば先程のコボルドはなぜ瀕死でこんなところまでやってきたのだ?
コボルドは弱き種族。
一体で森をさまようようなことはしないだろう。
やつがやってきたのはこちらだったか?
よし、ゾンビラットにマミーラットよ、そちらに偵察に向かえ。スケルトンラットとゾンビスネークは我の護衛だ。ラットたちがサラサラと草むらを駆け抜ける音が、背後で小さく響く。
それにしても腹が減ったのう。
人間の体というのは効率が悪いのだな。魔力自体は魔核によって溢れているが、それを制御するための体力が足らなすぎるわ。
〈ライト〉に〈アニメイテッドデッド〉に位置入れ替え、魔毒の生成だけでこれほど消耗するとは。このままではせっかく封印から逃れたのに一日持たぬぞ。
それに足の裏が痛いわ。
靴を履かないと森を歩くことさえ困難とはなんたる脆弱な肉体だ。
脆弱ゆえにそれを補うべく技術を発展させていったのだな。
我と相対した人間、勇者どもは強かった、はずだ。
記憶も曖昧だ。
数十年では効かぬ年数封印されていたようだしな。
「ひゃん?!」
変な声が出た。
何だ今のは。
背中になにか冷たいものが。
自らの目では見れない位置だ。
ゾンビスネークに我の背中を見てもらう。
……ふむ、ただの夜露か何かだったようだ。
こんなに敏感では持たんな。
はやく服が欲しい。
人間どもが服を着ている理由はこれもあるのだろう。
不意の刺激に弱すぎる。
そんなことをやっている間にマミーラットが集落らしき場所を発見した。
でかした。
非常に粗末な作りでかつ小さい。
人間ではない、これはコボルドの集落だな。
ということは先程のコボルドはここからきたのか?
マミーラットが集落に近づくと異様な雰囲気に包まれていることがわかった。
どうも襲撃を受けていたようだ。
何体もコボルドの死体が転がっている。
ややずれた方向に進んでいたゾンビラットも別方向からコボルドの集落らしき場所についた。
こちらからは戦いの音が聞こえる。ガチャン、ズシャッと金属と肉のぶつかる響きが、遠くから伝わってくる。
まだ戦っているようだ。
先程のコボルドは戦いで傷つき、逃げたのだろう。
草むらに隠れつつ偵察を続けさせる。
その間になんとか我も急いで集落へ向かう。
戦っているのはコボルドと、おそらく冒険者であろう、若い人間の男が一人だ。
周辺にはコボルドの死体に紛れて人間らしき死体もある。
人間がコボルドの集落に襲撃をかけたのだろう。
大変好都合である。
このまま双方共倒れしてくれればだいぶと助かるのだが。人間が優勢のようだ。
たった今最後の立っていたコボルドが人間の若い男に倒された。
男は叫び、膝を付き、自ら被っていたヘルムを脱ぎ捨てた。ガランとヘルムが地面に転がる音が、静まり返った集落に響く。
コボルドを全滅させ油断したようだ。
両膝を地面につけ、おそらく嘆き悲しんでいる若い人間の男の首筋に向かって背後からマミーラットが襲いかかる。
男は飛びかかられたことには気づいたが、なすすべなくマミーラットに首筋を噛まれた。
もちろんマミーラットにも魔毒を付与している。
もともと毒を持たぬラットに付与したもののため、先程のスケルトンスネークに付与した魔毒よりは弱い毒となっているはずだが、体力を消耗していたためか、当たりどころが悪かったか、すぐに毒が回ってくれたようで、若い男は苦しむ時間もほとんどなく死んだ。
ゾンビラットにも攻撃させようと思っていたのだがいらなかったようだ。
しかし男の最期の抵抗でマミーラットは地面に叩きつけられてしまってばらばらになってしまった。
フィードバックが起き、今度は腕を怪我してしまった。
しばらくゾンビラットに集落を偵察させていたところで、ようやく我も集落にたどり着けた。
ゾンビラットは先程魔毒で倒した若い男とは別に二体の人間の死体を見つけていた。
内一体は女だった。
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