男は度胸、女は愛嬌

@IceFlame

第1話

年々、春と秋がないことにやっと気付いた。

今年は9月だってのに、日中の気温は真夏並み。

汗かきの俺にはなかなかにきつい。

先ほどから顔にへばりつく汗と多分焼かれているだろう肌の暑さをどうにかしたくて仕方なかった。

そんなこともあり、建物でできた日陰についつい目がいってしまうし、その影に身を潜めるように歩く。道行く多くの人がそんな感じだった。まぁ、稀にそんなことを気にせず、日光に当たりながら信号待ちしている人もいたが。

やはり、細い路地は建物の影ができやすい。大きな通りだと車道の幅があるので、影で作られた安全路が少ないからだ。しかもあったとて途切れやすい。

ゆえに俺は、好んで細い道や路地裏を選びならがの帰宅の途にあった。

「ん、なんだ、あれ、」

俺が目を凝らした道行く先に人だかりが見える。男4人に女2人ってところだろう。路地裏ということもあり物陰に隠れて見えづらいこともあり、正確な人数を把握できない。夏休みが明けて間もないので、バカンス気分が抜けない遊び仲間同士がたむろって話しでもしているのかもしれない。

近づくにつれ、その様相が見えてくる。男は正確に5人。そ全員が着崩した感じのストリートファッションだった。それに対し、女は2人。これは遠目からみた人数通りだった。ただ、その服装が学生服。しかも隣の学区の中学校の制服だった。こちらは着崩した様子はなく、逆にピシッと、それこそ”制服です”っというくらいだった。女の一人は腰ぐらいまでもあろうかというほどの長髪で、もう一人は肩にも届かないショートヘア。ショートの女なゆるくウェーブがかかっており、少し色を抜いているためかサラサラな印象を覚える、軽めの印象の髪型だった。それゆえに長髪の女はとても黒々としていると感じられ、良く言えば艶のある黒髪であり、悪く言えば重くっるしさを漂わせていた。向こうの集団も俺が近づいてきているのが分かったのか、会話らしきものをやめて、俺の方を見てくる。あまりいい目つきではない。

俺は、知ったこっちゃないな、と思い、そのまま横を過ぎて通り過ぎようとした。その際、もう一度、女2人に目をやった。やはり俺も男だ。女がどんな顔をしているのか、近くで見たかったからだ。黒髪の女は伸ばしている髪と同様、縦長のスレンダーな感じ。胸のお淑やかなレベルで、清純さを絵にかいたような印象だ。顔の輪郭もシャープ。目もやや切れ長といったところか。肌は透き通るほど白かった。これに対しショートの女は、女に言うのが適当かどうかわからないが、ややがっしりとした感じで、運動か何かをやっていることが一目瞭然だった。肌は日焼けしてやや浅黒い。目はパッチリとしている。黒髪の女は綺麗、ショートは可愛い、大別するならそんな感じだった。この二人の全くと言ってもいいほど逆の印象が、お互いの良さを引き出している。並んで歩けば、学校では注目され想いを寄せられる二人だろう。少なくとも、俺の学校ならそうだ。つまり、男なら放ってはおかないだろうということだ。

そんな二人には不釣り合いな路地裏だが、ナンパでもされ、告られるところなのかもしれない。取り巻く男たちは、どうやら通りすがりの無害の男と判断したらしい。俺は俺で自分の好みかどうか確認できたので、邪魔しちゃ悪いと思い、視線を外そうとしたとき、微かに聞こえた。

「助けて」

と。震える、か細い女の声だった。

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