第5話 『恋愛観』も本人の属性相性に左右される


 異世界二日目にしてカスみたいな称号を手に入れてしまった俺だが、ここで寮に引きこもってしまっては意味がない。

 俺の現状を確認するためにも、軍学校の講義というのは重要だ。


 まず、この世界は俺の知っているゲームの世界ではあるが、現実だ。

 俺の知っているこのゲームのジャンルはSRPG──味方ユニットと敵ユニットがターンを入れ替えながら盤上で戦闘を行うタイプのゲームだった。


 だが、現実の戦闘がSRPGのようなターン制のはずがない。

 この世界はコマンド選んで戦ったり、スキルや魔法を使ったりする世界じゃない。


 俺の持っているゲーム知識を過信するのは危険だ。

 何回か試してみたがステータス画面も存在しない。


 つまり、この世界で何かしようと考えたら『この世界の知識』が要る。

 そして軍学校は、まさしくそういった『生き残るための知識や技術』を教えてくれる場なのだ。


 だから、周囲から『愛勇者』だのとからかわれようと。

 同じクラスのライティが、気まずそうに俺をチラチラ見ていようと。

 両方意識しすぎて、自由席にも関わらずお互いが最前列の端と端に座る感じになって弄られようとも。



 俺は学校の講義から逃げるわけにはいかないのである!






「では、今日は昨日の実習のおさらいとして、魔術の属性についての話を──せっかくだから『恋愛診断』になぞらえて説明しようかしら! 今、学校で最もホットな話題だものね!」



 と、軍学校にしてはやや厚めの化粧をした若い女性教官が言い、クラスが一丸となって囃し立てた。


 わりぃ、やっぱ逃げてぇわ。



「各属性の説明の前に、簡単におさらいしようかしら。ライティ、この世界の魔術属性についてを簡潔に述べなさい」


「はい」



 女性教官がニヤニヤした顔でライティを指名し、ライティは努めて真面目そうな顔で立ち上がった。

 やめろよ! 俺が悪いのは間違いないけどめちゃくちゃ恥ずかしそうだろ!! 握った拳がぷるぷる震えてるからな!!



「魔術属性は大きく分けて四つと一つ存在します。


 炎界『コルキノス』に属する火属性。

 氷界『ラキュアノス』に属する水属性。

 嵐界『プラクシノス』に属する風属性。

 鉱界『キトアリノス』に属する土属性。


 そして未分類が虚界『アクロラウス』に属する無属性です」



「グッド。座っていいわ」



 教官の指名から解放され、ライティは露骨にホッとした顔をしながら着席する。かわいい。


 まぁ、この辺はゲームの知識がある俺も知っている事柄だ。

 とはいえ、別に脳内Wiki●ediaがあるくらいやりこんだわけじゃないからな。ゲーム知識はところどころ怪しい。

 復習の意味も込めて、教官の説明に耳を傾けた。



「みなさんも知っている通り、我々の世界は隣接する四色世界の影響を強く受けています──」



 ざっくり言うと、四色世界ってのはそれぞれの属性世界のことで、それらの世界はバチボコに仲が悪い。昔は戦争とかしてた。

 それを見て呆れた神様が、その仲の悪い世界が互いに干渉できないように、緩衝地帯として作ったのがこの世界だとか。


 そんな成り立ちなので、この世界は四色世界それぞれの影響を受けている。


 たまに「この世界を橋頭堡にして他の世界に攻め込むぞ!」っていうやんちゃな奴が、魔王として現れたりもする。

 というか、そのまんまの流れがフォーリンライト1──FLシリーズ一作目だったかな。


 ああついでに、虚界『アクロラウス』ってのは、ゲーム世界的に言うと『良くわからない世界』のこと。

 先の四色世界には存在しないはずのものが不意に現れたりすると、よくわかんねえからこの虚界から来たものだとする。


 ぶっちゃけると『地球』を含めた『異世界群』がこの虚界ってことになっている。

 地球由来のアイテムを都合よく出すための設定だろう。

 そしてこの設定があるからこそ、俺はもしかしたら日本に帰れるのではという、淡い期待を抱いているわけだが。


 まぁ、世界観についてはこの程度でいい。

 ぶっちゃけ三作目のFL3では終盤にならないと関わってこない設定だし、今は関係ないだろ。



「それで、ここからが重要よ! こん世界に生まれたものは全て、四色世界の影響を受けていると言ってもいい。つまりは『恋愛観』も、本人の属性相性に左右される……と言われているわ!」



 ようやく本題に入れてウッキウキの教官を、俺は冷めた目で見ていた。

 はっきり言ってそれ絶対に眉唾だろ。

 なんで魔術適正が、人間の性格に影響すんだよ。

 どう考えても血液型占い程度の信憑性しかないだろ。


 ……つまり、それで盛り上がる文化はこの世界にあるってことだ。クソが!



「火属性の人は、情熱的な恋愛をする傾向があるわ! 燃え盛る炎のような、熱く攻撃的な求愛。相性が良ければ周りも巻き込んで燃え上がるその恋は、まさしく火力に秀でた火属性の特性そのもの! ただし、一度炎が消えてしまうと新しく燃え上がるのは難しいから、一気に燃やしすぎるのも考えものよ!」


「教官! つまり出会って即プロポーズするような強火野郎は、火属性ってことですか!」


「うふふ! その強火っぷりは、可能性があるわね!」



 悪ノリした同級生がクソみたいな質問をしている。

 やめろ、俺を見るな。



「水属性の人は、恋愛ごとそのものにあまり興味を示さない傾向があるわ。それをクールと見るか脈なしと見るかは、あなた次第。でも気をつけて。普段は流れる水のように穏やかな人でも、その中に恋という氷塊が生まれたら──どんどん固まって、気づけばもう恋の虜。あなたを閉じ込める束縛愛の化身になるかもしれないの! 何事もほどほどにね!」


「教官! お友達からではなくいきなり結婚とか言うタイプは、もう絶対零度ってことでしょうか!」


「確かに。その硬い気持ちは炎でも溶かせないかもしれないわね!」



 悪ノリした同級生がクソみたいな質問をしている。

 うるせえよ。



「風属性の人は、気まぐれな旅人ね。あっちへふらふらこっちへふらふら、移り気なあの人を好きになったら、きっとたっくさん苦労することになるわ。ただそれだけじゃないのよ。あなたが困った時、悩んだ時、辛い時。誰よりも早くあなたの元に来てくれるのは風のような人。あなたの心で燻る恋の火を燃え上がらせるのは、そんな人かもしれないわね!」


「教官! つまり誰よりも早く告白するという速さは、風属性の特徴ってことですか!?」


「恋愛は速さも大事よ! ただあまりに速すぎると相手を置いてけぼりにするから気をつけて!」



 悪ノリした同級生がクソみたいな質問をしている。

 ねぇこれ、いつまで続くの?



「土属性の人は、どっしりとした恋愛観を持っていることが多いわね。急に燃え上がる炎や、気まぐれな風とは違うわ。大地に木が根を下ろすが如く、じっくり、ゆっくりと恋の苗に水をやっていれば、いずれ必ず恋の花は咲く。俗に言う恋愛下手な人が多い印象だけど、最後の最後に勝つ幼馴染と思ったら、ある意味一番ドラマチックな人たちでしょうね!」


「教官! じゃあ愛勇者は違いますね……」


「そうね……」



 そこはもうちょっと頑張れよ!

 俺だって落ち着いた恋愛観の生き物かもしれないだろ!

 つうかこっちは十年以上前から好きだったから! どっしり根を張ってるから! 一番その属性が近いから!




「それでは実際に例を見てみましょうか。ロクス」


「……はい」




 特定の生徒を狙い撃ちするのやめろ! と大声で叫びたかったが場が悪かった。

 周りの好奇の目線がすごい。物理的な圧力を感じる。



「あなたの属性はなんなのかしら?」



 属性ね。へへ。

 もちろん覚えている。この体が入学時に受けた検査結果も、そしてゲーム知識としてもバッチリ知っている。


 ロクスは腐っても主人公。

 答えは、こうだ。





「……全属性適正です」


「まぁ!! つまり移り気なくせに、すぐに燃え上がり、しかも恋した相手は束縛して離さないってことね! 悪い男!」


「なんで土属性を省くんですか!!」





 こうして、この講義は俺の公開処刑から始まり、これ以降は誰かが名指しされることもなく、普通に講義の内容に入っていった。



 これイジメだろ。訴えたら勝てるからな絶対。








 そんなこんなで魔術理論基礎の講義を終えたあと、俺たちは他クラスと合同の体術・持久訓練の時間を迎える。

 要は徒手格闘とマラソンの時間だな。まぁ、俺たちはまだ基礎体力作りで、ひたすら走りこまされている段階だけど。


 方々から『辛い』とか『地獄が始まる』とかの声が聞こえてくる中、同室のフチバと共に柔軟を行なっていた俺は、不意に声をかけられた。



「おい、愛勇者」


「なんだぁ?」



 俺が若干キレながらそちらを振り向くと、他クラスのいかつい顔をした男が俺を睨んでいた。




「ちょっとツラ貸せよ、話があんだよ」



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