酢飯一人称の語りが香り立つ描写と擬人化の軽やかさで読者を一気に厨房の熱へ連れ込む。「ノリコ」の劣等感と「イクラ」のカミングアウトが、食卓の定番に〈役割と居場所〉の倫理をそっと滑り込ませる。能天気キャラの仮面や「へばりつく黒」の自己認識など、笑いと胸のちくりが同居する設計が巧い。最後の“一粒と一欠片”の目配せで、欠落が余韻へ反転——丼の端に本作の芯が宿る。