第29話 熊の襲撃



「ところで、あの時空の穴が開くのは何時だったっけ」

 階段を降りながら、リリーが僕に訊いてきた。

 六時間に一回、五分間だけ向こうの世界の装置を操作して、カークが時空の穴を開くことになっている。

 僕らが帰ってこれるようにだ。


「後、二時間弱です」

 時計を見て僕は答える。


「いつも開いてるんじゃないんですか?」

 すかさずフリーマンが訊いてきた。


 その事を僕が説明すると、フリーマンは唸って、

「それでは、その装置の理論的背景も知る必要があるかもしれませんね。僕が魔法で作る時空の穴とは違っているかもしれないから」

 フリーマンの言うのももっともだ。


 そんなやり取りをしている間に、春の妖精の泉に入る分岐点まで来た。

 下りは登りの半分くらいの時間で済むようだ。


「うわあ、すごい。あれが乗り物ですか」 

 雲からのぞいた月明かりの中、鈍く光る宇宙艇が見えてくるとフリーマンがはしゃいだ声を上げた。


 その時、近くで獣の唸り声が聞こえてきた。低い声だったが、僕の犬の聴力ではっきりわかった。

「気を付けて。熊がいるようです」

 先行するユン少佐に警告した。

「任せとけ」

 リリーが後ろから歩み出て、腰の雷電の鞭を構えた。

 ユン少佐は今は武器を持たずに丸腰なのだ。


「あそこにいます」

 僕が指差す方向で、二頭の大きな熊が立ち上がり、威嚇のポーズをした。

 リリーがすっと前に出て熊を電撃で仕留めようとする。


 僕はその後ろで見守っていたのだけど、その時、リリーの感じが変わった。

 きょとんとした後、え、これ、困るよ。と言ったのだ。


 熊が二頭襲いかかってくる。やばい。リリーは驚いてしゃがみ込んでしまった。

 たぶん、今の瞬間にリリーから凛々子に変わったのだろう。

 リリーさん、しっかりして。

 僕はそう叫んで、ローブを捲りあげ、熊に向けてお尻を差し出した。


 熊の一匹が僕のお尻の魅了の術にかかって、ふらふらと寄ってきた。

 もう一匹はメスなのだろう。後ろの方で困惑してるみたいだ。

「凛々子さん、鞭であの熊を倒して」

 僕はそう叫ぶが、凛々子はオロオロしたままだ。


 ユン少佐がその時動いてくれた。

 凛々子の手から鞭を取り上げて、メスの熊に向かって使ったのだ。

 バチッと電気がショートする音がして、メスの熊は気絶してしまった。


 なんとか上手くいった。

 オスの熊は僕のお尻を舐め始める。

「この熊は、そのままでいいです」

 僕はそう言っていつものパターンに持っていく。

 熊のペニスが僕のお尻の穴を広げながらに入ってきた。


 うわあ、すごい。何がすごいって、長さが長いのだ。人間や狼に比べても。

 30センチはあるみたい。

 熱く脈打つその肉棒が、僕の中に入ってズズッと奥まで犯してくる。


 ああ、すごくいい気持ち。男の娘サキュバスの喜びの一瞬だ。


 熊の重さには辟易したけど、気持ちいいのは嬉しい。

 そうやって熊の五回の射精が終わった。僕は大満足。

 でもフリーマンは呆れた顔で僕を見ていた。

 しょうがない、男の娘サキュバスは、正体が知れると軽蔑される運命なのだ。


 僕から離れて、オス熊がゴロンと眠りに入った。

 熊の精液の効果がじわじわ僕の中に生まれ始める。

 臭覚と聴覚は犬の時とあんまり変わらない。

 増してきたのは怪力だ。熊の腕力のすごさが、僕の筋肉の中に生まれたみたいだった。

 

「じゃあ、乗り込むぞ」

 ユン少佐に促されて、僕は宇宙艇のハッチのロックを解除した。

 最初に僕が乗り込んで、リリー、フリーマン、ユン少佐の順で狭い艇内に乗り込む。

 狭いとはいえ、一応四人分の席はある。


 僕は操縦席で船のコンピューターと意思を接続した。

 僕の視界が船のカメラに切り替わり、周囲が赤外線カメラの緑の映像になった。

 来た行程を引き返すように指示を出す。

 

 そのまま無音で船は浮かび上がった。重力エンジンの船は加速感さえ感じない。

 月明かりの中の山肌が窓の奥でテレビ画面のように遠ざかっていく。


「ええ? 今浮いてるんですか?」

 フリーマンが声を上げた。

「時空の穴まですぐだけど、半時間ほど仮眠できるかな」

 ユン少佐はそう言って目を瞑った。


「凛々子さんは眠くはないですか?」

 僕は凛々子に尋ねてみる。

 凛々子の身体の中には、さっきまでリリーが活動していたのだ。

 その間凛々子は眠っていた状態にあったわけだ。


「あんまり眠くはないよ。自分は眠っていて夢でリリーが活躍してるのを見ていただけだから」

 凛々子は元気な声で答えた。

「でも、身体は疲れてているはずだから、特に眼は休めていたほうがいいですよ」

 僕が言うと、うん分かったと言って背もたれに体を預けて凛々子は目を閉じた。


 二人はそうやって休んでるけど、フリーマンだけは興味深げに窓の外を眺めている。

 遠く眼下に見える街の灯り、月の光に浮かび上がる湖や川の光。

 なんとも幻想的な景色だった。


「あのう、ちょっと聞いてもいいですか?」

 フリーマンが席を立って僕の横に来た。

 どうぞっと僕が言うと、

「さっきのって熊と交尾していたんですか」

 小声で聞いてきた。

 見てたらわかるだろうに。


「そうだよ。僕は男の娘サキュバスなんだ。僕のお尻から魔法が出ているのわかっただろさっき」

「それはそうですけど。熊とやって痛くなかったのかなって思って」

 うつむくフリーマンは可愛かった。


「すごく気持ちよかったよ。だって僕はサキュバスだからね。狼とも犬ともやったことあるけど、熊のものは一番大きかったよ。いつもよりも奥まで貫かれて、何度も言っちゃった」

 僕が言うと、フリーマンは大きくため息をついた。

 彼も男ウケの欲望があるのかもしれない。


「君もやってみたい?」

 僕が聞くと、彼はぷるぷると首を振って自分の席に戻っていった。

 

 窓の外はあくまで幻想的な月の光に照らされていた。




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