午前一時のささやき
りおん
第1話「深夜のタクシー」
私は小さい頃から、真面目な性格だった。
成績も優秀で、よくテストでは一番になっていた。男の子からは「ガリ勉」と言われバカにされたこともあったけれど、これも私なんだから仕方ないと思って無視することにしていた。
中学、高校、大学と問題なく進み、一般企業に就職した。就職活動はすぐに終わったので苦にならなかった。今まで頑張ってきた私へのご褒美なのだろうなと思った。
就職してからも、私は真面目だった。先輩から学んだことをすぐに吸収し、自分のものにする。仕事で生かして、周りからの評価も上がる。自分のできることをやっているだけであって、周りの人の視線や評価は気にならなかった。
そんな私もこの会社に勤めて5年。後輩ができた。今年新卒で入ってきた子の中で気になる子が一人いる。彼女は明るい性格で、「
今日は残業をしていた。ここ数日は定時で帰ることが多かったので、久しぶりだ。
たまにはこういう日もあるだろうと思って、私は仕事を続ける。周りは一人、また一人と帰っていって、気づけばフロアにいるのは私一人になった。ここまで終わらせたら……と思いながら、欲張って違うところに手をつけているから、こんなに時間がかかっているのだ。それも悪くないと思うのは真面目な私らしい。
ふと手を止め、時計を見る。時間は夜の12時をとっくに過ぎていた。しまった、集中しすぎて時間を気にしていなかった。終電が行ってしまった後だ。まぁタクシーで帰ればいいかと、スマホを手に取りタクシーを呼ぼうとしたそのときだった。
「――あ、みさとせんぱぁ~い、まだいたんですかぁ~」
フロアに声がした。見ると気になる子――
でも、いつもと様子が違った。ふらふらとこっちに来ていて、ガツンと机に脚を打ち付けて、「いった~」と言っている。よく見ると顔も赤い。
「ちょ、ちょっと、大丈夫……って、真綾、お酒のにおいがするね」
「えへへ~、しごとがえりに、ともだちとのんでましたぁ~、そしたらでんしゃがなくなってぇ~」
「えぇ、だからそんなにふらふらなのか……あ、ちょっと――」
真綾が倒れこむようにして私に抱きついてきた。
「えへへ~、みさとせんぱぁ~い」
「だ、大丈夫なの……? もう電車ないから私はタクシーで帰るつもりだったけど、一緒に帰る?」
「は~い、わたしもみさとせんぱいとかえらせていただきまぁす」
ぎゅっと抱きついて離れない真綾。「ちょ、ちょっと、タクシー呼ぶから離れて」と真綾を無理やり椅子に座らせ、私はスマホのアプリでタクシーを呼んだ。10分くらいでここに来れるみたいだ。
その後、タクシーが来て、私は真綾を支えるようにして乗り込んだ。まずは彼女から送った方がいいと思って、酔った彼女から住所を聞いて大急ぎで家を調べた。だいたいの道は分かったので、運転手さんにこの道を進んでくださいと指示をしていた。
私の隣では「えへへ~」と上機嫌な真綾が私にくっついてくる。離そうとしてもなかなか離れてくれない。まぁ仕方ないと、私は彼女の肩に手を置いた。
「……みさとせんぱい、だいすきですよ」
ぽつりと、真綾が言った。え? と思って彼女の顔を見ると、目をつぶってタクシーの揺れに首がこくこくと動いていた。
(……え? い、今の……って……?)
腕時計を見ると午前1時くらい。深夜のタクシー中で、私は胸がとくんと鳴ったような気がした。
あれは本気だったのか、酒の戯れだったのか――私はまだ、その区別がつかなかった。
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