第2話 逃亡
幽閉場所からの脱走は全て失敗。隙がなかった。こうなったら護送中に何としてでも逃げなきゃ。島に流されたら終わりだ。
そんな護送馬車の荷台は、鉄製の檻で周囲を厚手の布で覆われていて外の様子すら満足に見れない厳重なもので、そんな檻には私以外にも人が居た。私と違う点は彼は口も縛られており、喋ることすら許されていないということだ。
私の膝の上では、唯一の使い魔である黒猫が丸くなって寝ている。耳はピクピクしているから起きてはいるようだ。
「ねぇケダマ? あの人ってば何をしたのかな?」
「さぁてねぇ」
「興味ないの?」
「他人を気にしている余裕があるの?」
「ないけどさぁ。現状、他に出来ることがなくって。そだ。あの人に協力してもらって脱出って出来ないかな?」
「二人して手足を縄で縛られてるのにかい?」
「そこはケダマに頑張ってもらってさ?」
「ただの猫に何を期待しているのさ」
「ナイフとか掠め取ってこれない?」
「咥えるぐらいなら出来るけど兵士から奪うのはちょっと」
「だよねぇ」
馬車はガタゴトと進み既に一昼夜。途中で檻の中に、固い黒パンが差し入れられたぐらいでトイレすら連れて行ってもらえない。逃げる隙が全然ない!
「どうしよう」
誰にともなく呟いたらケダマが答えてくれた。
「とりあえず夜なんだから寝たら? いざという時に眠いです。動けませんじゃ話にならないよ?」
「ケダマったら冷たぁい」
「ぼくほど温もりのある存在はいないよ?」
「まぁ確かに。膝は温かいけどさぁ」
そんな会話をしていると木の壁が叩かれた。
「煩いから寝ろってさ」
「へいへい」
私は狭い馬車の隅っこで丸くなる。ちなみにもう一人の彼は座ったままだ。寝てるんだか起きてるのだかすら分からない。
「何かあったら起こすから」
「うん。よろしく」
こうして私は眠りについたのだが、数時間後に起こされることとなった。
「アヤ。起きて」
小さく囁くような声が耳元でする。
「ん、何?」
「しぃ。静かに。外に人の気配が多数あるよ」
「えっ、なんで?」
「わかんない。でもこの馬車包囲されてる」
すると突然、外で「ぎゃ!」という声が聞こえた。そのすぐ後に兵士の声だろう。
「敵襲! 敵襲!」
という叫び声が聞こえた。
「な、何?」
「わかんない。ちょっと見てくる」
「ちょ」
止めるまもなくケダマは厚手の布の向こう側へ行ってしまった。外では怒声や悲鳴。鉄と鉄がぶつかる慌ただしい音が続いている。
そこにケダマが帰ってきた。口にはナイフが咥えられている。
「ケダマ。よくやった!」
私は縛られている手の縄をナイフで必死に切る。急げ急げ。腕の縄を切ったら足だ。急げ。縄をブツリと切ったので、次はスカートにスリットをいれる。走って逃げるのには邪魔だからだ。
外ではまだ剣戟が続いている。私は同乗している彼に聞いた。
「ナイフ。要る?」
すると彼が頷いたので、手にナイフを握らせる。外では剣のぶつかり合うが止んだようだ。男たちの声がする。
「この護送車で間違いないんだな?」
「あぁ。日時は合ってる。間違いないはずだ!」
「ウィリアム様。今、助けますぜ!」
どうやら、もう一人の囚人の彼の仲間のようだ。
檻の後ろのドアが開けられた。その瞬間。私は思いっきり飛び出した。
「とぅ!」
深夜という条件。辺りは暗い。荷台から飛び出して着地した際に即座に目に入った林へと駆け込む。途中で私を捕まえるべく男の手が伸びてきた。
「ケダマ!」
「はいな」
ケダマが男の顔に爪を立てたらしく小さな悲鳴が上がった。
私はそのまま振り返ることなく森へ。だがすぐに息が切れ始めた。
「はひっ、はひっ、はひっ」
お嬢様育ちに体力を求められても困るんだよね。私はそのまま地面に倒れ込んだ。
「はひっ、はひっ、はひっ、ケダマ?」
「大丈夫。追いかけては来ないみたいだよ」
遠くのほうで声がする。
「ウィリアム様。ご無事で!」とか「先ほどの逃げた娘はどうします?」とか言っている。すると「放っておけ」という声が聞こえたので私はホッと胸を撫で下ろすのだった。
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