ラブスレイヤー

@Raito_11

プロローグ ラブコメの世界へようこそ!!

ラブコメは現実的ではない。


そんなことを思うのは初めてではなく、 きっと最後でもなかった。

読み終えたばかりの本を閉じた音が自室中に響いながらため息をこぼした。

部屋の大部分を占める堂々としたオーク材の本棚にこのラノベを置いた。


ベッドに横たわると本の香りが漂ってきた。

それは心を落ち着かせる香りで、まるで柔らかく心地よい綿の雲の中に沈み込むように、ベットに身を沈めた。


ここは僕の聖域で、長い時間を過ごす平和の安息地だった。

目を閉じると意識が徐々に薄れていった。


もし現実がラブコメの通りだったら、きっと状況が違っていただろう。


瞼を開いた時に鮮やかな白い光に襲われた。

まばたきをしてから、もう自室にいないことに気づいた。


知らない場所だった。


真っ白な場所で、天井も床も壁もないみたいから、夢を見ていたに違いない。

だが硬くて、山の水のように冷たい地面の感触は非常に現実的に感じられた。


不意に何かが視界に入った。


「ヤッホー!」


元気な声で知らない少女に挨拶された。


誰だこいつ!?


「おい!聞いてるの!?」


意識を確かめるように、顔の前で手を早く振った。

かがんでいた彼女をゆっくりと見上げた。


彼女は古代ギリシャを思わせるサンダルを履いて、服を着ていた。

純白の衣装は超自然的な雰囲気を放ち、細くてすらりとした姿にぴったりで、その肌の白さにもよく合っていた。

長い髪は優雅に肩にかかり、幾千もの輝きを放っていた。


僕の視線に気付いてから、彼女の不安そうな顔が眩しい微笑みに変わった。


「やっと意識が戻ったのじゃ。植物人間になったかと思ったじゃがのう」

「君は誰?そしてここは一体どこ?」


彼女は見上げながら人差し指を頬に押して考えた振りをした。


「移行中の現実におるって言えるかもしれんのう?」


彼女は肩をすくめて答えた。


「僕に聞くな!」


こいつ、馬鹿にするのか!?


「で、君は誰だ?」


彼女の返答に対する苛立ちを表していた。


「我こそは愛子、ラブコメの女神じゃ!」と、彼女は胸に手を当てて誇らしげに言った。


答えを聞くと大きなため息をついた。

まったく…こんな夢をみるなんて、ファンタジー小説を読みすぎたんだ。


「では、なんで僕はここにいるのか?それに、どれくらいの間?」と立ち上がりなが

ら、呆れた声で言った。


「結構あっさり現実を受け入れたのう!」

「それは夢か、あるいは君の言うことが本当かもしれない。だって、こんな場所をよく知っているから?」

「はい、よく知っておる!」

「ったく…修辞的な質問だった。」

「ここには長くはおらぬ。なぜここにおるを告げる前に、一つ問わんことがある。」

「で、質問はなんだ?」

「なんで常にラブコメに愚痴るばっかり申すのじゃ!?」

彼女は語気を強めて聞いた。


愛子と名乗ったラブコメの女神の声には苛立ちと戸惑いが混じっていた。

しかも眉をひそめて、両手は腰に当てられていた。


まず無理やり移行中の現実に連れてこられて、僕が怒鳴られるって理不尽だ!!


「答えよ! 」


こいつはマイペースで、落ち着いた会話ができないタイプの人ということをよく分かった。


「ああ わかった、わかった。教えてあげる。ラブコメは現実的ではない。」


愛子の表情を見ると僕が言ったことをさっぱりわからなかったのを悟ったから説明し始めた。


「ラブコメで起こることは現実ではほぼ確率ゼロ。」

「違う!」

「いいえ。」

「噓じゃのう!」

「それはあり得ない!」

「ならば証せよ!」と出来ないことだと暗示して、彼女は挑むように言った。


確かに、それをどうやって証明すればいいんだ?

短く思案した後、よくあるアニメの定番ネタで説明すると決めた。


「要するに可能性はゼロ。ただの計算だ。例えば、男子高校生が一人暮らしをして、近所に同級生が住む確率は低い。それでこの同級生は偶然にクラスのトップ美少女である確率はもっと低い。このパラメータの確率を計算に入れると、主人公に惚れる隣に住む美人同級生は現実に存在しない。」


僕の主張を誇りに思った。

それにどう答えるんだ?何も言えないだろう?


「確かにそれは現実的ではないないけど他は…」

「それでは続けましょうか。生徒が教師と付き合う確率は低い。そして何よりも違法だ。親の再婚相手にはすでに子どもがいて、不思議に主人公は連れ子と恋愛関係になるの確率もほぼゼロ。」


話すにつれて、愛子の表情はだんだん曇っていった。


「モテなくて、取り柄もなく、成長もしない主人公がいるストーリーもよくある。それなのに学校のトップの可愛い女の子たちのハーレムができる。君はそれが現実的だと思うのか?」

「されど、最後の例はここ数年、流行せぬようじゃ。主人公たちは今やますます有能となりつつあるゆえ、容姿のみで人を量るは愚かなことじゃ。そなたは己を変える必要など、微塵もあらぬ。そのままのそなたを受け入れる者こそ、真に縁ある人なり。然らずば、そは誠の相手にあらず。」

「今どきの主人公たちが最低限の能力を持っていて良かった。でも、最後の言ったことには全く同意できない。」

「何のこと?」

「変わる必要なんてないって言ったけど、君の言う通りなら体重200キロの引きこもりで、抜きゲーばかりやってるニートに惚れる人がいる。このニートは変わる必要なんて本当にない?」

「…」

「答えを待っているよ。」と、満足げな表情を浮かべて言った。

「…い…」

「何?よく聞こえませんでしたー。」


勝ち誇ったような顔で、よく聞こえるように手を耳の近くに当てていた。


「ああもう…同意する!そなたの言う通りじゃ!」

「では、他の文句でもある?」

「少々待たれよ!」


眉をひそめて、指を使って数え始めた。

何を考えているのかわからないけど、彼女はすごく集中していた。


「ラブコメは現実的にあらずとも、それが悪きことか?その物語は面白くて読むと気持ちがよくなる!そうではなければ、誰も読まぬ。物語は現実的である必要あらんや? たくさんのファンタジーが現実的でなくとも、素晴らしいじゃのう。」


「ただの現実の真似だ。シミュラークルとも呼べるものだ。大抵の人は本物の人生だと信じて、あるいはそのペテンに気づくほど賢い者だったら、この幻想から解放されても、現実を作品と比べたら人生はつまらなく感じる。大体の小説はその通りだ。芸術は現実を真似して、その後は現実も芸術を真似するから問題ないと言えるかの知れないけど、残念ながらすべての人間はこの洗脳を受けないので化と道徳が変わらない。想像してみよう。陰キャたちが本を通じて人付き合いの方法を学んだと想像してみよう。そこで学んだことは間違っていて、社会の中でまるで異星人のように浮いてしまうでしょう。もし彼らがラブコメに従ったら、それは大惨事で完全な失敗になる。僕を信じてよ。」


「これはちょっと偽善ではないかのう。そなたの部屋には、書が山と積まれておろう。特にラブコメじゃのう!そなた…人生は退屈じゃと思っておるのかや。」と、悲しそうにいった。

「まあ、少しだけ。 でもこんな本を読むのは僕の選択だ。賢くないことは認めるけど、それでも読むのが好きなんだ。」

「ドMかや!?」


彼女は僕から少し後ろに跳ねるように身を引いた。


「 早合点すんな!それで、ここで僕が何をしているのか説明してくれ!」

「好きにすればいいじゃのう…」

「何でここにいるのか!!?」

「はいはい、わかった、わかった。少々待っておれよ。そなたはせっかちすぎるのう。それが原因でモテぬのじゃ。つまり、あのラブコメたいな世界へ移ろうということじゃ。あんな非現実的だと思う展開ばかりの世界に。そなたはその展開が起こらぬよう阻み見せよ」

「へえ!?そんなことがやりたくない!」


愛子は指パッチンをした。


足元に眩い光の輪が現れた。あまりに強烈で、思わず目を閉じ、腕で隠さねばならなかった。


「バイバイ!」


いつもの微笑を浮かべて、手を振った。

落下しているような気がした。


それで、慣れた柔らかい感触があった。その中に心地よく沈み込んでいった。

心地よくても、さっきの出来事を思い出してパッと上体を起こして、左右を見渡すと


自室にいることを確認した。


五感を通して感じる感覚はあまりにも鮮明で、夢とは思えなかった。


「ただの悪夢だった。」


安堵のため息をついた。

カーテン越しに差し込む朝の光で、朝だとわかったが、正確な時間はわからなかった。

腕を伸ばして、寝台の上に置いてあるスマホに手を伸ばし、授業に行くまであとどれくらい時間があるのか確認しようとした。


しかし、手が届く前に電話がかかってきた。


「ありえない!」


<3<3 Honey<3<3 と呼ばれる連絡先はないはず!


まるで爆弾だったかのようにゆっくりと手を差し伸べた。


「も、もしもし?」

「グッドモーニングダーリン ! 」と愛子が元気な声で挨拶してくれた。


「ラブコメの世界へようこそ!!」

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