ショッピングモール内

「どっちが似合ってます?」


「うーん……どちらも似合っていると思うけど、そうね。私的には右の方があっていると思うわ」


「それじゃあ、こっち買います」


 僕は早見さんとショッピングモールを回りながら、秋服を買い漁っていた。既に購入した服の点数は十近く。

 結構な量を買ったと言える。

 もうある程度は十分かな。


「早見さんも何か買いますか?」


「えっ、あっ……私?いや、私はちょっと……うーん、いや、でも」


 自分からふっかけた疑問に対して悩んでくれている早見さんに対し、その答えが出るよりも前に僕は別のところに視線を送る。


「魔力反応」


 その理由は単純。

 魔物が発生する魔力反応をちょうどこのショッピングモール内で感じたからだ


「えっ……ッ!」


「上か」


 僕が視線を上に走らせた瞬間。


「きゃあああああああああああああ」


「ま、魔物だぁ!?逃げろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ひとつ上の階から人々の悲鳴が聞こえてくる。


「蓮夜君。お願いできる?」


 だが、それに対する僕たちの反応だって負けてない。

 迷うことなく魔法で上階にまで移動した僕たちは己の視界に魔物の姿を捉える。

 まだ、誰の犠牲も出ていない。ちょうどタイミング良くここまで近くで魔物が出たのだ。

 第三課のメンツ的にも、人道的にも、被害を出すつもりは無い。


「お安い御用ですよ」


 衆人の目がある際、第三課で戦う担当は僕だ。

 僕は刀を取り出すとともに転移魔法を使用して魔物の背後に立ち、それをふるう。


「はぁ、ほんとこの姿だけはいつでも滅入るな」


 僕が人の前で戦うときは女装しなきゃいけない。

 刀を取り出すよりも前に魔法で女装を完了させるほうが早かった。


「しかも、相手は硬いと来た。面倒極まりない」


 女装時間を減らすために戦闘時間はできるだけ短くしたい。だというのに、目の前の魔物といえばなかなか面倒くさそうな性能をしていた。

 

「ガァァァァァアアアアアアアアアアッ!」


 体を両断するつもりで振るった僕の刀は魔物の骨によって止められ、その上で断つ途中から魔物の肉が再生し、刀は相手の体の中で止められる。

 硬く、再生能力持ち。

 実に厄介な魔物だ。


「ぐががががっ……ぎゃぎゃぎゃ!」


 僕が魔物の体から刀を引き抜こうとしても、魔物はその筋肉でそれを阻害し、いじわる気に笑う。


「……身体強化」


 それに対し、僕は初めて身体強化の魔法まで使って己の体を強化して強引に引き抜く。


「前に試運転した時はちゃんと筋肉痛になったんだ。僕にこれを使わせた罪は重いぞ」


 蹴りひとつを叩き込み、魔物を強引に後ろへと後退させる。


「よっと」


 そしてもう一度、刀を振るう。

 身体強化して二度目の一撃。今度はしっかりと骨まで断つことが出来た。


「ぎゃ!?」


 だが、直ぐに再生してしまう。うん、この再生能力、普通に異世界でも上位クラスだよ。

 現実世界で戦った魔物の中ではトップクラスかも。


「れ、蓮夜くん!少し、少し不味いかもしれないわ。感じる魔力反応から見るにそいつはただの徘徊型じゃ……!」


「むっ」


 どう攻略するか手をこまねき、刀を手元で遊ばせていた僕へとかけられる早見さんの言葉に少しムッとする。


「これくらい、苦戦することないし……!」


 早見さんに低く見られるのはちょっと嫌だ。


「たまには出し惜しみゼロで戦うのも大事だよね」


 この一週間、思えば僕は全力で戦っていなかった。

 あくまで自分が今、どれくらいのことが出来るが、日夜確かめる程度であった。

 それくらいで倒せてしまったとも言える。


「ふぅー……」


 ようやく骨のありそうな敵が出てきたのだ。

 そろそろ、どこまで全盛期のように戦えるのか。それを、確認するターンとしてもいいだろう。

 息を吐き、刀を鞘に収め、魔物の前で構える。


「時雨一刀流───」


 たった一年だ。

 僕が勇者として異世界で魔王を倒すまでにかかった時間は。

 もちろん、その快進撃には勇者として与えられたチート能力の存在も大いにあったが、それ以上に僕が元々戦い方を知る人物だった。これも大きいだろう。

 僕は父の教えで知名度は無いが、実戦を前提とした確かな殺人術として長い歴史を持つ時雨一刀流を修めていた。この刀術に異世界の魔法とチート能力を掛け合わせ、僕は圧倒的な短期間で魔王を倒すという偉業を成し遂げたのだ。


 

「───抜刀一殺」


 

 魔王にも届かせた一閃。

 緻密にコントロールした魔力を乗せ、己の最高速度で持って放つ一閃は魔物が認知するよりも早く彼の体を断つ。


「ふぅ」


 特殊なのは、勇者の血だ。

 勇者という神に選ばれし者の血は特殊であり、常人にはその体に入るだけで全身を蝕む毒となる。

 その血を、僕は魔力と共に制御しながら刀に込めた。


「がっ───」


 己の少し後ろ。

 僕が再び納刀すると共に勇者の血に蝕まれた魔物はその全身を焼き焦がされ、その場に倒れる。


「……うそ」


「にしし、終わりましたよ?」


 少しすれば魔物の体が灰となり、崩れ出す。

 これで魔物の討伐は完了だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る