山奥
僕の発言に対し、土御門さんは悩むようなしぐさを見せたものの、早見さんが僕の強さにお墨付きを出してくれたおかげで僕が一緒に出撃する許可が下りてくれた。
「今回、魔物が出たのはとある山の山頂付近。人気のない静かな場所よ。だから、どれだけ暴れても大丈夫ね。でも、そう簡単に援軍は呼べないから注意して頂戴」
「はい」
早見さんと魔物が出たという山へとやってきた僕は彼女が告げる注意点に頷きながら山登りをしていく。
「……それにしても、さも当然のように刀を持っているけど、それは何処から持ってきたの?」
「いや、なんか召喚出来て」
今、手に持っている刀は異世界で勇者をやっているときにも使っていた自作の刀だ。
何時でも召喚できる。
異世界からこちらの世界に召喚できるかは不安だったが……問題なく召喚出来た。愛刀を手にした僕の実力は持っていないときと比べたらもう格が違う。
大活躍間違いなしだね。
「いやはや……なんか、当たり前のように自分の戦い方を熟知しているね」
「自分でも不思議な感覚ですよ」
こう答えるしかない。
記憶喪失の嘘をついているせいでこんな曖昧なことしか言えなくなってしまった。
「自分の知らない、世界を見ているような感覚です……少し、先に魔物らしき影が見えます」
それでも、手札を隠しておくべきじゃない。
出し惜しみは被害に直結するからね。不思議な感覚の一点張りで僕は索敵までしっかり行っていく。
「えっ?」
「きっと、あれが僕たちの倒すべき魔物でしょう?」
「あら、索敵も出来るの?一体、どんな魔法をもって……?いや、とりあえず、案内して頂戴?」
「お任せを」
魔物がいるという山全体を魔法でまるっと索敵している僕は迷いない足取りで魔物の方へと向かっていく。
「いました」
僕が足を止めて耳を澄ませば、木々のざわめきの奥から近づいてくる湿った足音が聞こえてくる。
遠くの足音が腐葉土を踏みしめるたび、獣とも人ともつかぬ影が揺れ、その影は僕たちの前へと姿を現した。
「オォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!」
ねじれた四肢は不釣り合いに長く、皮膚は瘡に覆われ、黄ばんだ牙が唇の隙間から覗く。
口は開けられず、小さな隙間が唇に開けられたまま、魔物は僕たちの姿を捉えた瞬間に咆哮をあげる。
「あれね」
「サクッと斬れそう」
感じる強さでいえば、異世界の魔物よりも格段に弱い。
あの程度であれば何も苦戦することなく一刀のもとに斬り捨てられるだろう。
「焦っちゃ駄目よ?」
何気なく足を踏み出し、魔物との距離を詰めようとした僕に対し、鼻先を人差し指で抑えて動きを止めてくる。
「蓮夜くんは知らないと思うけど、魔物には色々な種類が居て、容易に近づいちゃいけない奴もいるの。だから、焦らないでね?」
「はひっ」
横からこちらへと覗き込んでくる早見さんに思わず僕は思考を止める。
「うん。それでいいの。偉いわ」
「うぅんっ」
い、いやいや、魔物を前にして呆けちゃ駄目でしょ。
何時、向こうが攻撃してくるかわからないのだから。
「魔物には二種類。相手が何も考えずにこちらへと突っ込んでくれるようならそのまま戦っちゃって構わないわ。ただ、相手がこちらに突っ込まず、魔法を使い始めたら気をつけて」
「……?」
魔物が、魔法を?
僕は密かに早見さんの言葉に首をかしげる。
異世界だと魔物とは魔力を帯びた動物のことを指していた。そして、魔法を使う魔物は魔族と呼ばれ、魔物とは別として区別されていた。
魔法を使うには知性がいる。
知性がある存在を、ない存在とひとくくりには出来ないという判断だったはず。
はて、この世界だと知性がなくとも魔法が使えるのだろうか?それとも、ただ異世界と違って区別されていないだけなのだろうか?
「オォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!」
そんなことを僕が考えていると、目の前の魔物がこちらの方へと咆哮をあげながら突撃してくる。
「今回は突っ込んできてくれたわね。これなら、警戒する必要も特にないわ。ただ、殺すだけでいいもの」
魔物の突撃に対し、早見さんがただ手を前に差し出す。
「……わぁ」
早見さんの手元に魔力が集まると共に彼女の前に巨大な透明の壁が聳え立つ。
「ォォオオオオッ!?」
ただ真っすぐに突っ込んでくるだけだった魔物はその壁に当たると大きな衝撃を受けて悲鳴を上げ、そのまま後ろにのけぞる。
「ほっ」
そんな魔物の前へと一呼吸のうちに移動した僕はそのまま刀を振るう。
抵抗感はなかった。
僕の魔力を帯びた刀は魔物を縦から一刀のもとに斬り捨て、魔物はそのまま横に二つとなって倒れていく。
「はい。終わり」
魔物は異世界でも、現実世界でも倒されれば塵へとその姿を変える。
倒れた魔物が塵となって天に昇っていく様を確認した僕は刀を異空間に返す。
「わぁ、素晴らしい」
戦闘時間はごくわずか。一瞬で片が付いた。やっぱり大して強くはなかったな。
「二人の勝利ね。はい。いぇーい」
大して強くないなどと考えていた僕の横へといつの間にか近づいた早見さんは笑顔でこちらへと手のひらを向けてくる。
「い、いぇーい」
その手のひらへと、僕は気恥しさを覚えながら自分の手のひらを合わせ、軽くハイタッチを交わすのだった。
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