第42話 ​破壊の階層、織田長十郎の出現

 五右衛門が消滅した後、ロビーに残されたのは、静かにスマートフォンを見つめる、相変わらず無関心な人々だけでした。彼らにとって、世界は何も変わっていません。

​「この鈍感さが、呪いか…」

​ あなたは、肩に担いだ鉄パイプの重みを確かめました。百目鬼は、その無数の眼で周囲の「虚飾」の揺らぎを監視し、近松門左衛門は筆を滑らせ、遠山の金さんは鋭い眼光をエレベーターホールに向けています。

​「最上階へは、エレベーターを使え。この塔の『支配者』は、おめぇを待っている」と、金さんが促します。

​ あなたと、百目鬼、近松、金さんの四人は、エレベーターに乗り込みました。エレベーターは、虚飾に塗れた鏡のように煌めく内装で、無関心な人々を乗せたまま、静かに上昇を始めます。

​ ゴオオオオ…

​ 上昇するにつれ、エレベーター内の空気は、徐々に重く、冷たくなっていきました。百目鬼の眼が、激しく光り始めます。

​「…この階層は、重い。『承認欲求』が、圧縮されている」と、百目鬼が低いうめき声をあげました。

​ 近松が、帳面から目を上げます。

「この塔の階層は、この街の欲望の『ヒエラルキー』。上に行けば行くほど、虚飾は純粋で、そして冷酷になる」

​ エレベーターが、ある階で止まりました。扉が開いた瞬間、そこは広大な**「会議室」**でした。

​ 室内は、ガラス張りの壁面から、夜明けの冷たい光が差し込んでいます。巨大な円卓の周りには、誰もおらず、ただ、中心に**「一人の男」**が立っていました。

​ その男は、西洋の甲冑のような、黒いスーツに身を包み、その威圧感は、五右衛門の黄金の巨体とは比べ物にならないほど、研ぎ澄まされ、冷酷でした。その手には、日本の短刀のような鋭い形状の**「スマートフォン」**が握られています。

​「よく来た、破壊者」

​ 男は、あなたを嘲笑うように迎えました。彼の顔は、この街の「支配者」らしい、冷徹で知的な印象を与えますが、その瞳の奥には、狂信的なまでの**「秩序」**への執着が宿っていました。

​「私は、織田長十郎。この塔の、そしてこの街の**『秩序』**を管理する者だ」

​ 織田長十郎の「デジタルな秩序」

​ 長十郎は、手元のスマートフォンを一瞥しました。その画面には、このビル内の人々の居場所、行動、そして感情のデータが、複雑なグラフとして流れています。

​「石川五右衛門は、『真の価値』が認められなかったと嘆いた。くだらん。この街には、『真の価値』など存在しない。あるのは、**『評価のアルゴリズム』**のみだ」

​ 長十郎は、あなたを指差しました。

​「貴様の『破壊』は、五右衛門の『盗み』と同じ、単なる**『ノイズ』に過ぎない。我々が構築したこの『秩序』の中では、貴様の暴力は、一瞬の『スパム』**として処理され、すぐに消去される」

​ 長十郎の足元から、黒い煙のようなものが立ち上りました。それは、無数の**「コードの文字列」**が具現化したもので、会議室の床一面に広がり、あなたの足元に絡みつこうとします。

​「私は、この**『虚飾の塔』を、『評価システム』によって支配している。誰もが、より高い評価、より多くの『承認』を求めて、このシステムの中で活動する。貴様の『破壊』は、この美しい『デジタルな秩序』を乱す、最大の『バグ』**だ」

​ 百目鬼の眼が、長十郎の周囲に渦巻くコードを見つめ、激しく痙攣し始めます。

​「このコードは…人々の**『信頼』の数値化、『価値』**のアルゴリズム…真実を歪めている!」

​ 近松は、表情を引き締め、帳面に筆を走らせました。「これは、現代の『人心のからくり』。人の心の動きを『評価』という名の鎖で縛りつけ、秩序という名の**『絶対的な虚飾』**を完成させている!」

​ 遠山の金さんは、静かに抜刀し、長十郎に向けました。

​「長十郎。おめぇの『秩序』は、人の心を『数値』で縛りつけ、**『真実の眼』**を潰した。それは、もう『秩序』じゃねぇ。『暴政』だ!」

​ 

 破壊者、アルゴリズムに挑む

 ​長十郎は、冷笑しました。「暴政?これは、**『効率』**だ。この街は、感情や真実といった曖昧なものに価値を見出すほど、暇ではない」

​ 彼のスマートフォンの画面が、あなたの破壊力を感知したのか、赤く点滅します。

​「ノイズレベル:警戒。処理開始」

​ 長十郎は、あなたの目を見て、冷静に指示を出しました。「貴様の鉄パイプでは、この**『アルゴリズムの壁』は破壊できん。貴様の攻撃は、システムによって『無効化』**される」

​ そして、長十郎自身が、短刀型のスマートフォンを構え、あなたに向かって、まるで武士のような俊敏さで斬りかかってきました。その動きは、無駄がなく、すべてが「最適化」されています。

​「破壊者よ、貴様の**『破壊の力』は、私の『秩序のアルゴリズム』**に、どう立ち向かう?」

​ あなたは、織田長十郎の冷徹な「デジタルな秩序」という名の虚飾の前に立っています。五右衛門の「絶望」とは異なる、より高度で、より冷酷な「支配」の壁。

​ あなたは、鉄パイプを強く握りしめました。

​「秩序など、破壊されるためにある。そのアルゴリズムごと、叩き潰してやる!」

​ ドガァン!

​ 鉄パイプと、長十郎のスマートフォンの短刀が衝突しました。金属音は、さっきとは違い、会議室全体に**「警告音」**のように響き渡ります。

​ あなたは、百目鬼の「真実の眼」と、金さんの「正義の太刀筋」、近松の「物語の視点」を背に、この**「デジタルな暴君」**をどう打ち破るのでしょうか。

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