一ヶ月、君が僕にくれたもの

あを



毎日、ひとつずつ。



俺のではない物が、増えていった。



その代わり、俺の所有物は減っていく。




所謂、「 交換 」である。



後ろの席に座る同級生の女の子は、


毎日ひとつずつ、俺に彼女の物を渡してくる。



渡してくる、というより、目の前に差し出してくるので

それを奪い取るようにしている、というほうが正しいのだろうか。


彼女はその穴埋めに俺のを持っていく。






3回目の今日は、シャープペンシルだった。

薄いピンク色。0.3mm。


彼女が持っていったのは、黒い、0.5mm。

カラーペンとシャープペンシルが混じった多機能なそれ。










15回目の今日は、英単語帳だった。


俺の単語帳は、名前が消えかけていた。

彼女は、黒いペンで俺の名前を青色のカバーに書いた。



綺麗な字だと、思う。










20回目がきた。



今日は何を出されるか、気になっていた矢先に、

差し出されたのはネクタイだった。


今までは、小さな物ばかりだったのに。



するりと首元からネクタイを外し、

渡されたネクタイを結んだとき、


彼女は、なぜか寂しそうだった。










29回目。手紙を渡された。


俺は、返せる物がなかった。



家の中で、たった1人の部屋で、

水色のマスキングテープで止められた

封筒を開ける。




「 好きです 」




ラブレター。



でも、続いた言葉は、よくあるものじゃなかった。




「 ごめんね 」






30回目。彼女は、何も渡してこなかった。



俺からの返事を待っているようには見えない。





彼女は、記憶を失ったから。






手紙の最後には、



「 忘れちゃうんだ。明日。 」



「 きみのことも、きみが好きだったことも。 」





と、書かれていた。だから俺は、彼女に言った。




『 全部思い出した時に、俺は君にちゃんと言うから 』




好きだ、って。離したくないんだ、って。




『 はやくおれのことおもいだしてよ 』




涙は、頬を濡らしていく。

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一ヶ月、君が僕にくれたもの あを @cr_ak_12

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