第37話 case 4-ナイスッ!
まだいるのかよ…。
真っ暗な階段の下にぼんやりと見える、
そのリビングの明かりには恐怖の色が着いているようだ。
何色?いつもとは明らかに違って見えた。
暖色系のオレンジの明かりの中には紫とも赤とも言えない色が混在している。
何か話している声は聞こえるが、内容は全く分からない。単語すら聞こえない。
寒さと恐怖から体がガクガク震えている。
尿意と恐怖がぶつかり合い、なぜか央吾は静かに階段を降り始めていた。
階段を一段降りるごとにボソボソとしていた声が少しずつ鮮明になっていく。
半分ぐらいに差し掛かった頃、玄関で寝ているチロと目が合った。
思わずチロに向かって、人差し指を口の前に立てて「シ〜ッ」をした。もちろん声は出さずに。
ん?何で?別に堂々とトイレに行けばいいじゃん、そう思った瞬間。
「…まあバイ…、…、…、の所で廃…、…、警察に…、…、ないでしょ」
西中島の声だ…。
「警…、…らは特に…、…院の方にも信…、…、いるから…、…、…、ざいました」
次は母の声…。
少しだけ会話の内容?聞こえた…何の話だ…?
忘れていた尿意が一気に押し寄せて来たっ。
ヤバッ!不意に階段を踏み外してしまった。
ガタッ!
壁の向こうの4人の目線を感じた。
思わず音を立て階段を駆け上がってしまった。
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
チロ、ナイスッ!
チロの鳴き声は央吾の足音を掻き消してくれた。
央吾が部屋に駆け込んだ瞬間、リビングの戸が開く音が聞こえた。ギリギリセーフだろ?
その時、ドンドンドン!ドンドンドン!
玄関の扉を叩く音。
「チロを出せっ!チロと遊ばせろっ!」
郷田、ナイスッ!
物音の正体、チロが急に吠え出した理由、全てが繋がった。
央吾が居たかも?と言う考えは1階の4人にはもう無くなっているはず。
央吾は郷田に対して恨みこそあれ、感謝をしたのはこの日が最初で最後だろう。
「郷田さん、何ですか?こんな時間に」
「チロを出せっ!」
「チロは郷田さんの犬ではありません。うちの犬です。出しません。もうやめて下さい」
暫く央吾は聞き耳を立てていた。
ガチャ、
玄関が開く音。
「何だあんたは?」
郷田の声じゃない。あの男たちだ。
「お前たちこそ誰だ?」
「迷惑なんだよっ。もう来るなっ」
「うるさいっ、チロと遊ぶだけだろ」
郷田が食い下がっている。酔ってると気が強いな。
「駄目だっ、高梨さんの犬だっ。迷惑だと言っているのが分からないのか」
「うるさいっ!どけ!お前らっ!」
何か揉み合いになってるなぁ。
「ちょっと、外でやってよ」
西中島の声だ。
玄関が閉まる音がすると、会話は聞こえなくなったが、揉めてる怒鳴り声だけは聞こえてくる。
今日だけは郷田に感謝だな。一安心すると忘れていた尿意が再び襲いかかって来たっ!
ヤバッ!もっ、漏れる!
トトトトト、トトトトト
階段上がって来てるよぉ〜。
央吾には寝たふり以外の選択肢が無かった。
完全にこっちを見てる。しかも2人いる。
母と西中島だ…
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