間取り怪談 消えた部屋の秘密 ――あなたの家にも“余白”はありますか?

ソコニ

第1話  『四畳半のはずが』①


段ボールの山に囲まれて、俺は息をついた。


大学進学のために借りた木造アパート「コーポ青葉」の201号室。築四十年、家賃二万八千円。風呂なし、トイレ共同。それでも駅から徒歩十分という立地に惹かれて即決した。


「四畳半か……まあ、寝るだけだし」


スマホを取り出して、間取りアプリを起動する。趣味で集めている「一人暮らしレイアウト集」に追加するためだ。メジャーで壁の長さを測り、数値を入力していく。


縦二七〇センチ、横が……


「あれ?」


何度測っても、横幅が二四〇センチしかない。四畳半なら二七〇センチのはずだ。畳の敷き方を確認する。縦に三枚、横に——


「一枚と、半分……?」


おかしい。どう見ても畳は四枚と半分ある。だが実際の面積は四畳三分の一。まるで畳が縮んだみたいだ。


その夜、布団に入ってから気づいた。


ズル……ズル……


壁の向こうから、何かを引きずる音がする。隣の部屋だろうか。いや、音が近すぎる。まるで壁の内側から聞こえるような——


翌朝、管理人の田所さんに聞いてみた。七十過ぎの小柄な老人は、俺の質問に首を振った。


「全部同じ間取りだよ。四畳半にミニキッチン。そんな変な音も聞いたことない」


「でも実際に測ると……」


「測り間違いだろう」


にべもない。仕方なく階段で出会った隣室の住人——眼鏡をかけた中年男性に声をかけた。


「あの、夜中に変な音とか聞こえませんか?」


男性の顔が、一瞬こわばった。


「……君、二〇一号室?」


「はい」


「そう」


それだけ言って、男性は足早に去っていった。


夜になると、また音がする。今度ははっきりと聞こえた。畳を擦る音。そして、微かな呼吸音。


俺は壁に耳を押し当てた。


トン、トン。


試しに壁を叩いてみる。


すると——


トン、トン。


同じリズムで、返事が返ってきた。


壁の向こうに、誰かいる。


だが、そこは隣室との境界壁のはずだ。建物の構造上、人が入れる空間なんてあるはずがない。


それなのに、確かに誰かが——


「まだ、空いてる?」


突然、壁の向こうから声がした。女の声だ。若い、でもどこか湿った響きを持つ声。


俺は息を呑んだ。返事をすべきか、逃げ出すべきか。


長い沈黙の後、声は続けた。


「四畳半の、残りの部分」


ぞっとした。


この部屋の、消えた半畳分の空間。そこに、誰かがいる。



**次話**

主人公は壁の謎を解明しようと、部屋の改装履歴を調べ始める。そして前の住人たちが皆、「部屋が狭くなった」と訴えた後に失踪していることを知る……。


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