第12話 奥様を大切に思うメイドの純粋な言葉
「え?」
イリスは驚いて短く声を発した。夫とエレナが話し合っているのをイリスはじっと凝視して黙って聞いていた。
兄のシモンがやって来たことを知った二人は、一気に険悪な雰囲気が漂うことになった。声を抑えて離れて会話をしていたので、何を言っているのか全てを正確に聞き取れなかったが大体分かっている。
時どき怒っているような大声を出して、喧嘩してるのかな? と思うほど感情的になる一面も見せていた。そうこうしている内に、夫はエレナに見捨てられたのではないか? と思うことが起こった。
どうしよう!? と夫は今にも泣きそうな顔でエレナにすがって助けを求めていたが、エレナは夫のことを両手で押して突き放して怒鳴り声を浴びせていた。
愛する幼馴染のエレナから冷たい態度をとられて夫は大きなショックを受けたようで、両手で頭を抱えてうずくまって苦悩する表情を見せていた。次の瞬間、突然激しい嵐に見舞われたように叫びました。
「だ、旦那様!?」
「奥様に不義理を重ねた結果ですね」
「哀れな犬みたいに叫んで愚かですわ」
「イリス様のお気持ちに比べたら大したことありません」
「ふふっ、なんともまあ……みっともない」
「旦那様のことは見損ないましたからいいざまです」
「レオナルド様ったら猿みたいに騒いで恥さらしな男ですよ」
夫も信じていた相手に裏切られる気持ちを味わっているようだった。騒ぎを聞きつけて集まってきたメイドは取り囲むように立っていた。
主人の惨めな姿に動転して顔がこわばるほど驚いていたり、痛々しいものを眼にするような顔でクスッと失笑を漏らした。
特にイリスを慕っているメイドからは厳しい声が飛び出した。主人に対して普段はしないような無礼な暴言を吐いた理由は、長年連れ添った夫人に離婚を言い渡し、愛人と一緒に露骨に見下す態度を繰り返したことが許せなかった。
間近から見ていたメイドたちは切なそうな顔で唇を噛んで涙を堪えた。いつも優しく話しかけてくれるイリスの人柄の良さというものを日々感じているので悲しくて胸が痛かった。奥様の辛さを思うと心が刺されたような苦痛でした。
イリスは差別が嫌いで誰とでも分け隔てなく接し、メイドたちの事を自分の娘のように思い大切にしてきた。メイドたちもイリスが近くにいるだけで安心した。
「いつも身のまわりの世話をしてくれてありがとう。感謝していますよ」
「奥様、私たちにはもったいないお言葉です」
「イリス様の柔らかな笑顔にいつも心が癒されています」
伯爵家でメイドとして働く前までは常に不安定な境遇に置かれていた者も何人かいたが、イリスの愛情ある気遣いに触れて心が救われた者も少なくない。
ほとんどのメイドたちは、イリスの事を母のように思い親愛の情を抱いている。そんな尊い神様みたいな最高の存在のイリスに、冷酷無残なやり方で追い出そうとしたレオナルドとエレナに憎悪のこもった感情になるのは自然なことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます