人生ってなんだろう
レネ
⭐️
逆さ富士を映す、澄んだ朝の湖面を眺めながら、フミヤはぼんやりと思った。
10代の頃思っていた人生と、実際の人生は随分違ってしまったな、と。
白鳥が鏡のような水面を筋を引きながら渡っていく。
フミヤはまず、自分がこんな歳まで生きるとは考えていなかった。10代の頃は、若く、溌剌としたうちに散っていくだろうと考えていた。まさかのうちに40を過ぎ50を過ぎる頃には、まだまだ人として責任を背負っていて、逝くわけにはいかなかった。そして今でも,自分はまだ人間として責任を背負っていると感じていて、ひとり逝くわけにはいかない。
今はまだ、肌もツルツルと言われるし、顔にも手にも皺はなく、いかにも若々しいが、この先は徐々に老いてやがては老醜を晒すことになるのだろうか。それは、若い頃はそれなりに容貌に自信があって、異性にもモテたフミヤには耐え難いことだった。考えられないことであった。
異性にモテたと言っても、若い頃は沢山素敵な恋愛をして、綺麗な子と付き合って、と夢見ていたが、実際はそう都合良くはいかなかった。もっと、女の子にチヤホヤされたかったが、そんなに甘くはなかった。
映画の世界に入って、俳優として名をあげて、40くらいで初監督をして、などと考えていたが、甘い夢は簡単に砕けた。代わりに残ったのは、思う通りにならない現実だけでなく、重苦しい労働の日々、生きていくだけで精一杯の、辛いこと、悲しいことが沢山詰まった人生であった。
それでもフミヤは生きた。人として、責任を放棄できなくなってしまっていたからだ。
人生ってなんだろう、そうフミヤは考える。結局、自分が望み、人を愛し、自分のために生きたのだと思う。
人のために生きるというのは、自分がそうしたいからそうするのであって、結局自分は自分の満足のために生きたのだ。
子供のためならなんだってできただろう。しかしそれは自分がそうしたいからそうするのであって、つまりはそれも自分の満足のためなのだ。
そうしているうちに、何十年もの年月が過ぎてしまった。
それがフミヤの人生だった。
でも、それだけでは人生は語りきれない気もする。沢山の,色んなことがあった。人生は、そう単純なものではなかった。
しかし、簡単に考えると、そういうことだ。
風が出てきた。
湖面に、静かに波が立っていた。
富士が揺れていた。
人生ってなんだろう レネ @asamurakamei
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