第22話絶体絶命

絶体絶命、それはこの事を言うのだろう。ドラゴニュートを見つけた次の瞬間、大量の魔族、魔物が冒険者に襲いかかり、陣を乱した。さらにその魔族や魔物は圧倒的な力を持っていて、一匹倒すのも時間がかかる、少なくともみなA級かそれ以上だ。魔族ならともかく魔物は理性のない化け物、それが魔族の命令だとしても従うはずがない。しかし事実としてそれは統率をとって僕たちに牙を向けた。僕は基礎魔法を使い、どうにか倒しているが他は違うようで人間の声が次第に減っていく。人が減れば一人が担当しなければならない敵の数も増える。負の連鎖だ。

少しずつ減っていく自分の魔力を感じながらそれでも上級魔法を放つ。そうしないと死んでしまうからだ。息も絶え絶えになったとき、また黒髪、黒目の魔族が大勢詰め寄って来きた。それをパーフェクトウォーターで薙ぎ払う。


「っ…」


しかし、魔族の最後の力により首に浅い傷をつけられた。この程度の傷どうってことないが、冷や汗が流れる。


「フードが切られた…」


こんな惨状に人間とほとんど同じ形、そして服を着た魔族を見極める方法なんて髪色くらいしかない。このままでは味方からも襲われる可能性がある。まさにそう思った瞬間人間の槍が何処からか飛んできた。


「くそっ…」


それは明確な殺意が籠もったもので、僕の脇腹をかするとそのまま後ろにあった木を切り裂いた。まともに当たっていたらひとたまりもなかった。


僕は人に殺されて死ぬのか。


魔力もそろそろ尽きかけるし、今裂かれた脇腹からは血がドクドクと流れている。これ以上は動けそうにない。だが一つ気がかりがあって、僕は重いまぶたをどうにか上げた。

オリエンはここに来ているのだろうか…来ているのだとすれば、オリエンだけでも…

そう思ったとき、女性の悲鳴がすぐ近くから聞こえた。


「素晴らしいギフトだ、これなら魔王様も喜ぶであろう。」


脇腹を抱えて木の陰から様子をうかがう、そこで見えたのは黒い鱗を纏ったドラゴニュートだ。上手く見えないが誰かを掴み上げているらしい。


「っ…やめろ!」


女性はそう言うと自分の拳をドラゴニュートの顔に放つ、しかしドラゴニュートは全く効いていない様子で舌舐めずりをした。


「怖がることはない、お前は下劣な人間から崇高な魔族になるのだ。」


人間が魔族に…?

そんなこと聞いたことがない、魔族と人間は全くの別種のはずだ。しかしドラゴニュートが嘘をついているようにも見えなかった。


「…そこに誰かいるのか」


枝を踏む音でドラゴニュートに存在を気づかれてしまった。無駄に頭を突っ込んだのが間違いだったと、そう思うと俺はゆっくりその場から姿を現した。きっと逃げたところで今の体力じゃ意味がないだろう。


「…お前は」


僕を見るなりドラゴニュートの鋭い眼光がゆっくりと丸くなる、そして手に持った女性を俺の前に投げ捨てた。


「っ…魔族!!」


霧がかかる森の中、近くで見なければ分からなかったがドラゴニュートに捕まっていたのはマチルダだった。傷が深いが死ぬほどではない。そんな彼女は僕を見るなり眼光を鋭くした、この距離で僕を認識できないはずがない。きっとマチルダは【読心】であのドラゴニュートの心を読み最善の行動をしているのだろう。


「ひどい傷だな、まだストックはあるが念には念を入れなければならない。そこの人間の肉を食らって体力を回復しろ。だがその人間も魔族にする、殺すなよ」


なるほど、ドラゴニュートは僕を魔族だと勘違いしているらしい、だからマチルダもそれに合わせたのか。瞬時に理解するとしゃがんでマチルダの腕に顔を寄せる。こうしないとドラゴニュートに人間だと気づかれかねない、そうしたら僕はいとも簡単に殺されるだろう。


「っ…」


しかし、マチルダの腕を持ち上げると彼女は眉を顰めた。見れば怪我をしている、だから攻撃力があんなにもなかったというわけか。僕はマチルダの顔を見ると腕をゆっくり下ろした。


「…何をしている?」


「【パーフェクトリーフ】」


そして魔法を発動する。残っていたありったけの魔力を注ぎ込んだ魔法はドラゴニュートを鋭い一本の枝が突き刺し、その後に大樹がそれごと全てを押しつぶす。倒せなくも時間稼ぎ程度にはなるだろう、僕は腕を押さえるマチルダに手を伸ばした。


「逃げるぞ」


しかし、そんなこと言っている自分が魔力不足でその場に倒れ込んだ。マチルダは焦って俺を抱えようとするが、やはり腕の怪我のせいで力が入らない。

このままでは二人揃ってお陀仏だ。


「…マチルダ先に逃げろ」


血の気が引いていく頭で僕はマチルダの手を払ってそう言った。ドラゴニュートが死んでいなければ、ここで時間を潰すのは危険すぎる。


「だめよっ!私だけ生き残るなんて…そんなの駄目…」


マチルダは震える腕で僕を掴むと一歩一歩前に進む、腕から嫌な音が鳴っていてとうに限界を迎えているはずだ。


「…いいんだ、もう僕はいい」


もう僕は生きていようが死のうがどうでもいいんだ。しかし、マチルダはきっと違う。待っている仲間がいる。


「【リーフ】」


出るかどうかは賭けだった。しかし、どうにか手からは何本かのか細い蔦が飛び出る。普段のマチルダになら直ぐに千切られてしまっただろう。だが、今の彼女をここから離す程度なら出来る。


「っ…やめて!!エリアス!!!」


蔦をそう叫ぶマチルダに結ぶ。そして、僕はマチルダを少しでも遠くに運んだ。彼女が死んだらきっとオリエンは悲しむ、だから生きていてほしいと思う。僕のエゴに付き合わせて申し訳ないとも思うが死ぬ前の最後の願いだと思って許してほしい。オリエンは僕が死んでも悲しまないだろうから、これでいいんだ。オリエンには幸せでいてほしい。それは今ですら変わることがない、僕のたった一つの願いなのだ。


ドゴォォン


マチルダを遠くまで運び、残りカスの魔力まで消え失せたその時、大樹が後ろで崩壊した。やはりあの量の魔力ではドラゴニュートを殺すことはできなかったようだ。


「…貴様良くもやってくれたな」


そう放つ声は怒気をはらんでいて、地を這うような低い声だった。


「我を騙しあの人間を逃がすなど…許せることではない」


ドラゴニュートはそう言うとゆっくりと足音を立てて僕に近づいてきた。しかし、倒れて動くことができない僕はそれを黙って見ているしかない。ドラゴニュートの足が見えた、次の瞬間僕はその足に蹴り飛ばされた。


「っ…」


近くの木に激突し、力なく落ちる。その衝撃で僕の骨が何本か折れたようで、尚更身体は動かなくなってしまった。


「あの【読心】のギフトをもった女は何処にいる…教えれば楽に殺してやる」


「…知らない」


そう答えると今度はドラゴニュートの足が僕の肋骨を圧迫する。そのせいで息が出来ずに、奇妙な空気音が喉を通った。


「貴様…巫山戯るなよ?」


どうやらドラゴニュートはマチルダのギフトが大層欲しかったようで、早く聞き出そうと僕を痛めつけた。しかし、どんなに、蹴られようが、殴られようが、押しつぶされようがオリエンに拒絶された時のほうが何倍も辛かった。そんな痛みで僕が口を割るはずがない。


「くそっ、あの人間まだ死んでいないだろうな…」


ドラゴニュートはどれだけ暴力を振るっても僕が口を割らないと気づいて焦り始めた。どうやら人間の死体を魔族にすることは出来ないようで、マチルダの安否を気にしている。


「…仕方があるまい」


ドラゴニュートはそう言うと僕の髪を掴み顔を上げさせた。目の前がぼやけていて何も見えないため状況を上手く認識できない。


「あの人間の場所を教えろ。さもなければお前の大事な人間を今殺す」


「は…言うわけ」


何を馬鹿なことを言うのだろう。マチルダの居場所を聞き出せない奴が僕の口からそんなこと吐かせられるはずがない。そう嘲笑うとドラゴニュートは目を細めた。


「オリエン…だろ?」


「は…?」


何故その名前を。そう考えた時にはドラゴニュートは僕の髪から手を離して落ちていたマチルダの大剣を手に取った。


「我のギフトは【宝物】そいつの一番大事な物の情報が全てわかる。」


「ギフトっ…!?」


魔族がギフトを持つなんて聞いたことがない、ギフトは人間にのみパーフェストが与える物のはずだ。僕が焦ったのを感じ取るとドラゴニュートはケタケタと笑う。


「殺されたくなければ言え…言ったらお前の宝物だけには手を出さないでやろう。あぁ、それとも生首を今持ってきたほうが早いか?人間は宝物を失うと直ぐに口を開くからな」


勝手に自己完結したドラゴニュートはそう一人で話すと物凄い速度で空に飛び上がった。そして身体の向きをアルシア王国に向ける


「やめろ!!!!」


叫ぶがそれには何の意味もない。

駄目だ、オリエンだけは駄目だ、嫌だ。


「くそ…っ【パーフェクトウォーター】」


手をドラゴニュートにかざすが手からは水一滴も出ない、魔力が尽きたのだ。


「死ぬなよ人間、お前の宝物を連れてきてやろう」


その時、オリエンがこいつのせいで殺されて、僕の前に死体が運ばれる、そんな嫌な映像が頭の中を過った。身体が震える、それは恐怖や悲しみ、そして怒りだ。

ここ最近僕は奪われてばかりだ。与えられた希望を少しずつすり潰して奪われる。オリエンとの繋がりを彼自身に奪われたばかりなのに、今度はこのドラゴニュートにオリエンという存在すら奪われようとしている。


奪われる……奪われた……じゃあどうすればいい?


心臓が強く鼓動する。何かが芯から溢れだした。


「奪い返してやる…全部っ…全部」


『【低下】が【rob】に覚醒しました。』


その時、何処からともなく目の前にそう表示された。

ギフトの覚醒…聞いたことはないが、そんなことどうでもいい。僕は今度こそドラゴニュートに手をかざした


「【rob】」


「っ!!」


それは言葉を発した瞬間のことだ。ドラゴニュートの周りに黒い靄が囲った。それがドラゴニュートをじわじわと飲み込んでいく。そして、空を飛んでいたドラゴニュートは地面に伏した。


「貴様!!何をした!!!」


ドラゴニュートはたまらず声を上げる、しかし少しずつその力も失っている。そして対照的に僕は身体の痛みが消えていった、それに魔力も体力も元通り…いやそれ以上に高まっていくのを感じる。


「これは…」


おもむろに立ち上がるがやはり身体の痛みすら消えていた。


「くそっ…こんなギフトを隠し持っていたのか…」


色々考えたいが今はそんなことよりもやらなければならないことがある。今度は僕がまだ口を閉じないドラゴニュートの側にゆっくりと近づいた。


「っやめ」


「【パーフェクトファイヤー】」


魔力が完全以上に回復した僕はそれの半分以上の魔力を注ぎ込んで、ドラゴニュートに当てた。するとドラゴニュートは抵抗する余地すらなく、灰と化した。

これが僕のギフト【rob】、相手から魔力、体力を奪って自分の物にする。現状起こったことをまとめたらそんなギフトだと推測できた。


「……これなら奪い返せる、全部、全部。」


自分の手のひらを見つめる、もう僕からはなにも奪わせない。奪おうとするのがオリエンだとしても…。

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