第14話酔い

「乾杯ー!!!」


冒険者ギルドのすぐ横にある食堂、そこは依頼終わりの冒険者達がよく馬鹿騒ぎをしている場所である。かく言う俺達もグレイデン以外は初のお酒、馬鹿騒ぎをする予定だ。ちなみにガミガミうるさいネックレスは宿の引出しにしまってきた。

俺は自由だ!!

俺達が囲む机には、前世で何度もお世話になった生ビール、マチルダちゃんの可愛いカクテル、そして肉!肉!!肉!!!肉!!!!

様々な調理をされた肉が食卓を飾っている。15歳の冒険者の男が三人もいるのだからこのくらい当たり前だ。乾杯をするとそれぞれ食べたい物をよそい、飲み、話した。現世では初めての生ビールが喉を通る、久しぶりのキンキンに冷えた生ビールは俺の疲れを吹っ飛ばした。


「タハーーー!!!」


「オリエンおじさんみたい」


初めてとは思えない俺の飲みっぷりにエリアスがクスクス笑う。


「おじさんで結構だぁ!!」


気にせずに骨付き肉を頬張る。元々大学生だったから今世の歳を足せば30代、15歳からしたら立派なおじさんだ。


「初めての酒は飲みすぎないほうがいいよ?」


グレイデンがニッコニコして俺を見つめる、何か期待しているようだが、残念だなオレは前世「人間の酒呑童子」と呼ばれた男だ、酔ったことなどこれっぽっちもないっ!!!!



「だ〜か〜ら〜!!!俺はぁ前世では人間の酒呑童子だってぇ…呼ばれてたんだぞ!!」


「酒呑童子…?オリエン大丈夫?」


エリアスの顔が歪んでいる、15歳になって出来てきたイケメン好青年の顔がこれじゃあ台無しだ。水を差し出して来るが俺に飲めとでも言うのだろうか、俺が一杯で酔うはずがないのに。


「いらあい」


「えっなんて?」


「いらない」


どうやらエリアスは耳も悪くなってしまったらしい…この世界では酔っ払うと顔が歪んで耳が悪くなるのだろう、変な酔い方だ。


「わぁ…すっかり出来上がっちゃってるね」


グレイデンもこちらを見て何故か嬉しそうにしている。生ビールではなくワインらしき物を優雅に飲んでいる様は不覚にもかっこいいと思ってしまう。


「本当お前面だけはいいよなぁ…」


「えっ…」


まぁ、グレイデンも酔ってるのか顔が歪んでて上手く見れないけど。しかし、俺が口走るとグレイデンの動きが止まったのは何となくわかる。イケメンと呼ばれただけで喜ぶなんて、意外と初心なやつだ。


「オリエン俺は!!俺は!!」


「イケメン!!」


「やったー!!」


エリックが横から迫ってくる、エリックは酔っ払っているせいか声がいつもよりも更に大きい。そのせいで、鼓膜が揺れた、だが嬉しそうにする顔が何となく見えて


「ちょろ可愛い」


そう口から零れた。


「かわっ…」


エリックは少し心外そうな顔をしているがそれがまた可愛い、エリアスがでかくなってしまった今、俺の精神的弟枠はエリックなのかもしれない。

いや…背は俺より遥かに高いか、やっぱり無しで。

何となくで頭を撫でてやるとエリックの顔が熱くなる、その熱さは火魔法で燃やされたか疑うほどだ。


「何やってるのよ…」 


犬を撫でるようにワシャワシャとエリックの頭を撫で回していると、マチルダちゃんから冷たい視線が送られた。心にぐさっときて手が落ちる。


「…マチルダちゃんも凄く綺麗だし可愛いよ」


何をしたらマチルダちゃんは冷たい視線を消してくれくれるだろうか、俺は考えた末本心のまま褒めちぎった。


「ほ、本当酔いすぎよ!!」


意外にもマチルダちゃんは照れるだけだった、もしかしたら一層凍えるような冷たい視線を向けられると思っていたから驚く。にしても照れている姿もとても可愛い。

子供の頃再会したての時はずっとギフトを使って俺の正体を知ろうとしていたようだが、今ではこんなに心を開いてくれている。本当に嬉しい限りだ。


「…オリエン」


また口から本心が漏れ出そうになった時、背後から地を這うような低い声が俺の名前を呼んだ。


「…酔いすぎだよ、宿に戻ろうか?」


その後俺はエリアスに持ち上げられた、この運び方は、絵本でよく王子様がお姫様にしてる…通称お姫様抱っこだ。俺の返事を聞かないエリアスの頬を抓る。俺はまだ酔っていない、それにまだ始まったばかりなのだ。帰るわけにはいかない!


「おろせー!」


「あ、おい!エリアス、オリエンをおろせー!」


バタン

 

しかし、俺の抵抗は虚しく背中に響くエリックの声を扉が途絶えさせた。もしかしたらエリアスは相当酔っているのかもしれない、宿に帰るための口実に俺を使ったのだろう。勝手だがまぁ、おじさんの俺が介護してやろう。そうため息をつくと絵本の姫様のように持ち上げられながら俺はエリアスの背中を擦った。


「っ…オリエン」


さするとエリアスの顔色が少し良くなった気がする、やはり酔ったんだな。


「吐きそうなんだろ、わかってるぜ」


「………」


ずっと撫でてやったがどうやらまた気分が悪くなったらしい、顔色が戻ってしまった。エリアスがこんなにお酒に弱いなんて、主人公パワーは流石にアルコールには負けてしまったらしい。エリアスは早く帰りたいのか無言のまま人通りの少ない夜道をずんずんと歩いた。


◇◇◇◇


「あ!!くそ!エリアス!!」


エリックの悔しさが滲む声が扉に投げつけられる。しかしエリックにその声を出させたエリアスがついに気配を消したのだから意味はない。


「そろそろ爆発する頃だと思ってたわ」


まだ少し顔の赤いマチルダが手で顔を仰ぐ、冷静を保とうとしているが、表情は恋する乙女のようになってしまっている。


「こういう時はグレイデンも何か言ってくれよ!」


数年たちグレイデンへの認識尊敬する人から友達に変えたエリックが彼の肩を容赦なく叩く。鈍い音が響いたがグレイデンはグラスを片手に持ったまま全く動く気配がない。


「グレイデンならオリエンに褒められた後ずっとフリーズしてるわよ」


グレイデンの肩を揺すり続けるエリックにマチルダが息をはいた。

マチルダの言う通りグレイデンは瞬きすらせずに固まっている、オリエンから褒められることがほとんどなかったせいで耐えられなかったのだろう。


「クソ!!エリアスめ!!」


自分の飼い主を奪われた犬のようなエリックの遠吠えがまた食堂に響き渡った。


◇◇◇◇


「エリアス…?」


意識が朦朧とする、頭が回らない、だがそれでも今がおかしな状況ということだけは分かる。エリアスを押し返そうとするが腕に上手く力が入らない、これじゃあただ胸に手を添えているだけだ。

俺はエリアスの部屋で座らされるといきなり抱擁を受けた。寒い夜空の下を歩いていたのに、エリアスの体温は熱い。それが俺にまで伝わり汗が首から垂れる。


「酔いすぎあぞ…」


俺を女の子だと勘違いしているのだろうか、でなければこんな状況説明がつかない。エリアスの息が熱い…熱い友情の接触でもやっぱり無さそうだ。


「まさか…俺をマチルダちゃんだと思ってるのか…?」


確か漫画ではパーティーを組んだ時からエリアスはマチルダちゃんに好意があった気がする、もしそれならこの状況は本当にまずい。明日起きたら隣に男がいました、とかエリアスのトラウマになりかねない。


「俺は…俺だぞ!」


思考がまとまらないせいでちゃんと説得ができているか怪しい、それでも俺はエリアスの背中を俺から引き離すために引っ張っる手も、口も止めない。しかし、エリアスは本当に正気を失っているらしい、無言でただただ俺を囲う手の力を強くするのだから間違えない。


「っ…エリアス」


「オリエン」


突然、その声と共にエリアスの顔が近づいてくる。

やっぱマチルダちゃんと勘違いしてるんだ…いや、まて、今俺の名前を呼んだ?

目を丸くすると顔は寸前のところで動きを止めた。エリアスの呼吸が皮膚を通してわかる位置、少しでも前に体を倒せば唇が当たってしまいそうだ。


「もう…我慢できない、好きだよオリエン」


「はっ…」


それは一瞬のことだった、エリアスのフードに隠れていた髪が頬にささる。そしてその直後、唇に柔らかな感触といっぱいのエリアスの香りが触れた。 

それが終わると今起こったことが気の所為だったと思えてくるほど、普段通りエリアスは頬を紅葉させて微笑む。

いや…えっと……?何が起こったんだ?

触れた体温がずっとそこ残り続ける、そしてその体温が体中を支配していく。それでも、俺の頭は何も理解出来ていなかった。体だけが勝手に盛り上がっていて、意識と体が切り離されたようだ。


「な…なんだ今の」


「…キス」


「キス…?」


奇数…?傷?ええと…Kissか?……英語苦手なんだよな…俺。

前世を含めこんな状況に陥ったのは初めてだ、頭が回らないせいか、いつも以上に何も考えられない。

キスって…あれだよな、恋人同士がする…、唇と唇を合わせる…あれ。それを…俺と…誰が…?

前を向けばエリアスがいる。しかし、まともに顔が見れない。心臓がバクバクと音を立てて血流を運ぶ、そのせいで体温もグングン上がって沸騰しそうだ。

わかった…わかったぞ、つまり俺はエリアスとキスしたんだ。

自覚するとまた頭がボーとする、意識が消えそうだ。

いや、もしかしたら…いやそうだ、そうに決まっている、これは夢だ、夢なのだ。

そう確信すると頭の中が少しクリアになった気がする。靄が減ると震える脳で俺はで好感度メーターを開いた。夢なら都合良く好感度を50まで下げれないかなぁ、なんて場違いな考えが頭をよぎったからだ。


『好感度+8 現在の好感度200』


あぁ…まぁ夢だし…数字もバグるか。異常な数字がエリアスの頭の上にデカデカと表示されるが、俺はとても冷静にそれを見つめた。


「なぁ…俺キス初めてした」


なんか、もう、そうだな、どうにでもなればいい。霞が消える一方で意識はどんどん落ちていく。エリアスが横に倒れそうな俺の体を支えて腰に手をやった。その行動があまりにも出来過ぎなスパダリで笑えてくる。

夢なら何してもいいよな。

意識が途切れる数秒前に俺はそう考えついた。そして、千変万化な俺の表情に比べてただただ幸せそうに目尻を下げるエリアスの顔が気に食わないと思った。だから、エリアスの整えられた襟をぐいっと引っ張って唇をふさいだ、ガチッと歯が当たったがどうでもいい。エリアスが驚いて顔を赤くした時点で俺の目標は達成したのだから。満足した俺はそのままエリアスにもたれて目を完全に閉じた。

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