涙の核争奪戦・前篇

空中に浮かぶ巨鳥――


全身が銀色の羽根で覆われ、


顔には仮面のような文様が不気味に輝く。


その周囲の風は狂い、


渦を巻いて里の空気を引き裂いていた。


「あれが《フクロウ型:封語メルヴィア》か


 強そうだな。ルメル直属の部隊長クラスかもな。」


「こいつをやっつけて指揮官を引っ張り出そう」


リサが低く呟く。


その目に宿る光は、恐怖よりも決意の色だった。


「みんな、気を抜くな!」


「了解っ!」


俺はスマホを操作し、


テラリンク防御陣を展開する。


地面の粒子が反応し、


淡い青い紋が里の中央に浮かび上がった。


その輝きに照らされながら、


指揮棒を地に突き立てた。


「全部隊第三層まで撤退。


 この陣で五分は稼ぐ。ミナ、散布爆弾を!」


「もう投げた! 鳥たちの群れ、バラけ始めてる!」


「よし、リサ、反撃開始だ!」


「了解!」


リサの残価剣が閃く。


光の斬撃が風を切り裂き、


メルヴィアの周囲を飛ぶ


価値狩り達の黒い羽根を焼き尽くした。


メルヴィアが防御陣に突っ込み、


破壊を試みる。


「語り千羽かたりせんば


羽根を舞わせ、


――鋭い風切り音が、耳を劈く。


旋風残価しっぷうざんかっ!」


リサが防御陣から飛び出し、


空を舞うメルヴィアに光の斬撃を飛ばした。


敵の部隊長は片翼をもがれ、


悲鳴のような“声”が空に響く。


――だが、その奥から


更なる風の唸りが迫っていた。


「指揮官が……来る!」


ミチルの叫びに、


俺たちは再び武器を構える。


空が裂け、嵐が咆哮した。


「ナナ、敵司令部の会話を聞きたい。


盗聴できるか?」


「語り鳥達の残価を吸収して大分調子がいい。


 50メートル以内に入れば出来る」


ナナの表情は自信ありげだ。


◇◇◇


――会話盗聴開始ーー


「あれーっ、何であいつらあんなに元気なの?


この土地に流れる価値はすべて封じたはずなのに。」


「セントリム神殿に生贄をささげたのでしょう。


くくっ、ならば一度引いて生贄の寿命が尽きてから


再侵攻したら必勝ですが……。」


「いいよ、この戦力で引き返したら怒られちゃうもん。


バルガン、一度ガルメスに勝ってるでしょ。」


「配下のスネラもやられましたし、私がいきますか。」


「うん、さっきの起爆剤も変だ。


誇り高い竜族が人間の兵器に頼るなんて。」


「それも含めて、小手調べと行きましょう。」


◇◇◇


「よしっ、最初に攻めてくるのはバルガンってやつだ」


《断語殻獣バルガン》のことだ。


敗北の思い出が蘇り、ガルメスが苦虫をかみつぶす。


セミのような羽を持ったサソリ型の価値狩りは


上空から巨大な甲殻を震わせ、尾の杭が地を貫く。


――ドンッ!


価値掘削かちくっさく――ッ!」


上空からの衝撃波が俺の体を震わせ、


岩壁が粉砕。


起爆剤の罠が一瞬で吹き飛んだ。


「くっそ、罠が通じない!」


リサが跳び退く。


このままじゃテラリンクも持たないな。


「リュナ、リュオ、風障壁を! 音で誘導しろ!」


双竜が咆哮する。


風が巻き起こり、バルガンの尾がわずかに逸れる。


その瞬間、隠れていたミナが炸裂弾を仕込んだ投石した。


「くらえっ《必中投石》!」


閃光が洞内を照らし、


バルガンの殻に亀裂が走る。


だがすぐに羽が白銀に輝き、


体勢を立て直す。


「貴様っ!!」


「ひぃぃ」


ミナが再度隠蔽を使うが、一度気づかれたので


効果が薄い。


「敵は沈黙のまま迫る。バルガン、


 そして最後尾には細剣を持つ女の影。


『上空から《断語殻獣バルガン》接近!


 ミナを援護する!』


俺の警告が、声にならず届かない。


リサの目が焦りを帯び、


ミナが唇を噛む。


「音も、語りも、魔術の詠唱も封じられる


語り封印羽かたりふういん


バルガンは低く笑った。


「ナナ、テラリンク出力を――声が……出せない……」


唇が動くが、音は届かない。


敵は沈黙のまま迫る。


《審理補佐セリカ》。


胸の首飾りに蒼白い光が揺らめく


“涙の核”が脈動していた。


その輝きは、まるで眠る命の心音のようだった。


「――“涙の核”、視認」


――ピンチはチャンスだ。


シルクのため、ここで決めるぞ!

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