魔獣進化とナナの恋心 ~光結晶がつなぐ絆~

ナナのスマホに表示される分析は明快だった。

《光結晶欠片:生命力回復・価値同調効果あり》


***


「つまり、治す力があるってこと?」


リサが呟く。


「だな。……試してみるか」


ミチルが視線を向けたのは、

隅で静かに身を横たえていたシルクだった。


最初は傷つき、

動きも鈍く、

声も出せなかった魔獣だ。


俺は光を帯びた欠片を、

シルクの口元へ差し出す。


淡い光が彼女の体に染み込み、

体長が二メートルを超えていく。


白い肌を白銀鱗が覆い、

次の瞬間、シルクは震える声で言葉を紡いだ。


「……ありがとう、ミチル」


全員が凍りついた。


「しゃ、しゃべった……!?」


ナナが目を剥く。


「え、シルク、女の子だったの!?」


リサが叫ぶ。


シルクはゆっくり体を起こし、

首をかしげた。


「えっと……そう、メス……だよ?」


「おおおっ!」


ミチルが歓声を上げる。


「今までこき使って悪かったな!

恨みっこ無しだぜ!」


リサも呆れ半分で笑いながら、

シルクの前足を取った。


「でも……よかった。

 綺麗な鱗。本当の姿を取り戻せたんだね」


光結晶の欠片は、ひとつ消えた。


***


シルクは、まだ言いたいことがあるようでもじもじしている。


「もうすぐ、人間に変化できるようになるから」


「データに……そんな進化記録、存在しないけど!」


ナナの声が震える。


「白龍は特別な力を持ってる――」


シルクはまっすぐミチルを見つめ、

決意を固めた。


「私……ほんとに嬉しい。

 ずっと、あなたにお礼を伝えたいって思ってた。


 私を救ってくれてありがとう。

 貴方が大好き」


唐突な好意の告白に、ミチルは固まる。


「……え? ちょっと待て、俺モテ期来た?」


「同期率80%超えはそういうこと」


リサが「調子に乗らないの!」と小突き、

ナナは画面の中でジタバタと震えた。


《エラー:感情の分類不能》


という文字がちらつく。


***


ミチルはにやにやとスマホを覗き込みながら言った。


「おいおいナナ、嫉妬か?

 お前もツンデレ期に入った?」


「誰がっ! 誰がそんな……!」


「そして、もう一つのかけらはリサだ。

ギルドにサンプルを提供して借金完済してこい」


「わっ、さすがミチル。

 年下もいいかなって思えてきたよ!」


リサが力強く抱きしめ、

頬にキスをしてくる。


「いてぇよ! 馬鹿力がっ!!」


***


その時、スマホから暗い炎のような熱を感じた。


「シルクとリサにかけらを渡して、

 一心同体のはずの私はどうなってるのかな?」


「ちゃんと考えているから心配するなって言ったろ」


「光神殿で私の進化は失敗、

 かけらは二人に渡した……信じていいのか」


「ああ、俺はナナのことが一番だ」


「ふぅん」


疑いのそぶりを見せながら、

スマホの熱はゆっくり収まっていく。


***


その瞬間から――


新しい波乱が、確かに始まっていた。

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