第6話 囚われの夜
その夜、城はひどく静かだった。
戦の報せが届くたびにざわめくはずの空気が、まるで何かを待ち構えているように張り詰めている。
ローザは自室の窓辺に立ち、夜空を仰いでいた。
氷のように冴えた月明かりが庭を照らし、薔薇の花弁に銀色の縁取りを与えている。
その美しさは、彼女の心を慰めるどころか、かえって孤独を際立たせた。
「私は……“神”なの?」
小さく呟いた声は、自分でも聞き取れないほど弱い。
歌で民を動かしながらも、本当は不安でたまらない。
彼らが信じる「神のような存在」は、ローザの心そのものではない。
彼女自身はただ、戦も涙も嫌だと願う一人の少女でしかなかった。
◇
そのときだった。
――かすかな物音。
窓の外の影が揺れ、冷たい風が部屋に吹き込んだ。
「誰……?」
問いかけに答える声はなく、黒い外套の一団が音もなく部屋へ踏み込んできた。
口元を覆った男たちの瞳は冷たく、迷いもない。
「お静かに、姫君」
先頭の男が囁くように告げ、鋭い刃を光らせた。
ローザの心臓が大きく跳ねる。
助けを呼ぼうとした唇に、荒々しい手がかかった。
◇
「ローザ!」
扉が開き、駆け込んできたのはナジカだった。
軍服のボタンを外したまま、剣を抜き放ち、一団に立ちはだかる。
「この城に指一本触れさせると思うか!」
黒衣の男たちが一斉に斬りかかる。
火花が散り、金属の音が夜気を裂いた。
「ナジカ!」
ローザは必死に手を伸ばした。だがその瞬間、背後から布がかぶせられ、視界が闇に閉ざされる。
「――っ!」
声にならない叫び。
身体が持ち上げられ、冷たい夜風の中へさらわれていく。
◇
最後に耳に届いたのは、ナジカの怒声だった。
「ローザを放せぇっ!」
それは必死の誓いのように響き、闇に沈むローザの胸に焼きついた。
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