「男装の麗人」「東洋のジャンヌ・ダルク」または「東洋のマタハリ」。キャッチフレーズがつけばつくほど本人の実体が見えなくなっていく。この作品を読んで川島芳子という人にそういう印象を抱きました。
大衆を熱狂させるアイドルであれ、ふたつの国の間で暗躍するスパイであれ、べたべたと貼られたラベルの裏に本当はどんな人間が隠れているのか。本書はその人生をときに客観的に、ときに本人の心が宿ったかのような視点で丁寧に紐解いてくれます。
歴史のうねりの中に放り込まれた波乱の人生を自分の足で踏みしめていくような大胆さと同時に、幾層にも重ねられた複雑な心のひだを隠す、道化のような寂しさを湛えた自嘲が感じられ、その最期にはやはりやるせない思いがこみ上げました。
中国と日本、どちらも彼女の祖国とはなり得なかったその心情が、タイトルである詩に痛烈にこもっています。重たくもしっかりと記憶に刻まれる、読み応えのある作品です。