キミのとなり
礼友 Soar (あやとも そあ)
第1話 幼馴染
「柚葉、今日バイト?」
授業が終わり、荷物をまとめていると、幼馴染の悠斗が話しかけてきた。
「うん、18時から。悠斗は?」
「俺も。じゃあ、途中まで一緒に帰るか」
「うん」
柚葉と悠斗は、他愛のない話をしながら、桜並木を通って駅までの道のりを歩いていた。
柚葉「わっ」
一瞬ぶわっと風が吹き、柚葉は、風に驚き手の甲で目を隠そうとした。
その時、手の隙間から見える桜の木がが目に入った。
桜の木々は、まだ満開にはほど遠いけれど、枝先にはほんのり淡いピンクが混じっていた。
「……桜、咲き始めてる」
ぽつりと呟くと、悠斗も視線を上げた。
「ほんとだな。もうそんな時期か」
「なんか、早くない?」
「そうか?こんなもんだろ」
そう言って悠斗は肩をすくめる。
柚葉は、もう一度桜の蕾を見つめた。
「……なに、ぼーっとしてんだよ」
悠斗の声にハッとして、柚葉は慌てて顔を戻す。
「な、なんでもない」
そう言いながら、足を早める。
後ろを歩く悠斗が、少しだけ不思議そうな顔をしているのが視界の隅に映った。
悠斗とは昔からずっと一緒にいるのに、最近はふとした瞬間に意識してしまうことが増えた。
悠斗とは、ただの幼馴染。
そう思っていたのに、なんでだろう・・・。
吹き抜ける風に、桜の枝がそよぐ。
つぼみの先がわずかに揺れた。
〜バイト帰りの夜道〜
春とはいえ、夜の空気はまだひんやりとしていた。
柚葉はマフラーをぎゅっと握りながら、歩くペースを少しだけ速める。
駅前のコンビニの前を通り過ぎようとしたとき、不意に見覚えのある姿が視界に入った。
「……悠斗?」
コンビニの自動ドアの前で、悠斗がスマホをいじりながら立っていた。
柚葉が声をかけると、悠斗は顔を上げる。
「おー、お疲れ」
「こんなところで何してるの?」
「腹減ったから買いに来た。
あと、ついでにお前のバイトもそろそろ終わる頃なんじゃねえかなと思ってよ」
「へ・・・。
(それってこの寒い中 待っててくれたってこと・・・?)」
悠斗は、コンビニの袋からレモンティーを取り出し、柚葉に向けて投げた。
「ん」
「え?わっ!!」
柚葉は反射的に手を出してレモンティーをキャッチした。
「あ、あったかい。
(あ・・・私の好きなレモンティーだ・・・)
「ほら、帰るぞ」
悠斗は、柚葉がレモンティーをキャッチしたのを確認して、スタスタと歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ。」
柚葉は小走りで悠斗を追いかけた
「迎えにきてくれてありがとう。
寒いかったでしょ?」
「だから買い物のついでだって言ってんだろ」
「(……悠斗のこういう優しいところって昔から変わらないなぁ)
ありがとう」
悠斗は少し照れつつ、ぶっきらぼうに、おぉ。と返事をした。
小さい頃から、気づけば悠斗が隣にいて、いつも守ってくれていた。
ただ、大人に近づくにつれて、それが”当たり前”じゃないのだと、気付き始めた。
(こんな風に、当たり前のように隣にいられるのはいつまでなんだろう・・・)
柚葉は、そんなことを考えながら、寒さで少し冷めたレモンティーを口に含んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます