エラー・ミラー・キラー

兎太郎

童話の世界

 白雪姫、シンデレラ、人魚姫、赤ずきん。誰でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

みんなが幸せになるハッピーエンド。そんな美しい物語を読み、子供の頃、夢を描いた人もいるんじゃないですか?


でも、本当の物語の世界は違います。



「お母さん行ってらっしゃい!」

「うん、行ってくるわね……」

 例えば赤ずきん。表場はお母さんのお手伝いをいつもしている優しく可愛らしい少女ですが………。

「――パタン」


「はっ……はっ……ははははああはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはああはあはあはあは!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

 お母さんがいなくなった瞬間こうです。

何だか、あの可愛らしい世界線とは懸け離れた人物ですね。しかし、これは珍しいことではありません。

 物語のキャラだって一人の人間なのです。闇の一つや二つは誰でも抱えることでしょう。

 しかし………。


「……、ってなにこれ?痛い、痛い、痛い……出てこないで、痛いよお」

 人の闇が限界を超えると、闇は身体から飛び出し、形を変えて暴走します。彼女の場合はオオカミですね。

 真っ黒くドロドロとしたオオカミ。これらの出てきた闇のことを「影」と呼びます。


「グルァ……グル……」

「や、やめて……食べないで!私のことを食べないで……お願いだから!」

 でも、出てきた影は凶暴化し、近くにいる者を無差別に襲います。このまま襲われて死んでしまう人もいますが……。



「大丈夫ですか!?」


 影を殺す事を仕事とする者達がいました。彼らはこう呼ばれていた。「キラー」と。



 小さな小屋に入ってきたのはキラーの少女だった。息を荒くし、だいぶ焦っているようだ。

 彼女は幼く十五歳ぐらいの見た目で、子供体型。長く綺麗な黒髪を二つにまとめていた。特に一番印象に残るのは魔法少女の格好をしていることだ。

そして彼女は綺麗で、妖しい……真っ赤な目をしていた。

「これは……ずいぶんと凶暴そうな……、とにかく倒すよ、お兄ちゃん」

 少女がボーイッシュな声で可愛らしい魔法少女の銃に話しかけると……

「うん、そうだね。殺っちまおうか……マギ」

と、マギと呼ばれた少女に返した。この銃は先ほどお兄ちゃんと呼ばれていた。彼の名前はグリムだ。

「ちょっと君は外に出てて……、この中でやっつけちゃうから」

 マギが赤ずきんにサインを送ると、おびえたように赤ずきんは外に出た。


「行くよ……って……」




「――ヴァオーッ――!」

 いきなり影が突撃してた。いきなりだったからかマギは体勢を崩し、横へと倒れた。

「痛い……もう、いきなりすぎだよ……」

 腰をさすりながら起き上がるとまた、影が突撃してきた。マギは腰のあたりからナイフを出し、影の首元に切り込みを入れた。

「よっしゃ…」

と……油断した隙に、影がマギを吹っ飛ばす。それは赤ずきんの小屋をも壊し、外まで飛ばした。

「なんか今日調子悪いね?なんか変なもの食べた?」

 心配しているのかからかっているのか……。マギは舌打ちをしながら立ち上がり、またまたナイフを手にする。

 影が突進してきたと同時に、マギは同じく影に突っ込んでいく。そのままどうするのか……。彼女は影に近づいてきた頃、影の腹の下に滑り込んだ。

そのまま勢いのまま、影のお腹を真っ二つに開くように、切り込みを入れた。

 周りに血が飛び散り、力尽きたのか影はバタっと倒れた。

「よっし……今日は調子がいいな……」

マギがガッツポーズをすると

「いやっ、さっきふっとばされてたよね?」とグリムが付け足す。

 マギはそれを無視し、グリムを影に向ける。そして、ゆっくり引き金を引いた。


「次は幸せになるんだよ」


 それだけを言って、弾を放つ。

影に命中すると、赤いリボンがオオカミを包み込み、いきなり小さく、光る何かに変えてしまった。

 マギは駆け足でそのかけらのもとに向かい、拾い上げた。

「おお!すげぇ……。めっちゃ綺麗にできたんだけど!

ほら見てみてお兄ちゃん」

「うわ……すごっ。これ、めっちゃ高く付くんじゃない?」

そう、マギが見つめていたのは鏡の破片の様なものだった。そこには、赤ずきんとその母親、父親が写っていた。しかし、それは仲の良い家族ではなく、荒れた、ひどいものが写っていた。それも生々しく、リアルなほど綺麗に。

「あのっ……さっきのは」

 赤ずきんがおどおどとマギに聞く。

「あぁ〜、あれは人の闇ですよ。抱え込んでたものが爆発するとあぁやって暴走して、私達を襲うんですよ。あれを倒して売るのが私達『キラー』の仕事です。

あなたの命が助かって本当に良かったです」

「じゃあ、その鏡の破片は……?」

 破片を指さされたマギはそれを赤ずきんに近づけ見せてあげた。

「これは、影が死んだときに残るものです。これを私たちは『メモリー』と呼んでます。

まぁ、影の発生原因になったもの、闇の根源を映し出してくれる破片ですね。

なぜだか知らないですけど……これが案外高く売れるんですよ……もし、欲しいなら買取しましょうか?」

 マギがそう言うと赤ずきんは顔を真っ青にし、首を横を振った。マギは頷き「まぁそうだよね」と言う。

「まぁ、何事も溜め込み過ぎちゃだめってことですよ赤ずきんちゃん?」

 グリムがそう聞くと赤ずきんは顔を曇らせた。

「うん……。最近、悲しいことが増えて、お母さんのお顔を気にして生活してたけど、疲れちゃった。でも、怒らせたら痛いことされるから……頑張ってたら……森に置いていかれて……、オオカミに殺されそうになっちゃったの。

その時からかな……本当は思っちゃいけない感情が溢れ出してきて、さっきは本気でお母さんに死んで欲しいと思っちゃってた。

お姉さん!私を助けてくれてありがとうございました!

まだ、モヤモヤはあるけど……でも、少しだけスッキリした気分」

 赤ずきんが賑やかな可愛らしい笑顔を見せると、マギは頬を赤くし目線を下に落とした。そして、照れたように「どういたしまして」を言った。


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