1000文字前後左右な話集
桃月兎
爺ちゃんの日記
父方の実家に来ている。葬式が済んで、父さんたちは形見分けとかをしている。俺は暇だったんで、爺ちゃんの机の引き出しに仕舞ってあった爺ちゃんの日記を持ち出して、読むことにした。
『家への帰り道で鳥の卵を拾った。図鑑で調べたら、どうやら、いや、どうにもこうにも鴉の卵のようだ。家鴨の卵だったら食べようと思ったんだが。実に残念だ。仕方ない乗りかかった船、豪華客船タイタニック号だ、育ててみよう』
タイタニック号って、初回航海で氷山にの、アレだよね。いい意味では使わない言葉だよ。
『野鳥の卵を勝手に飼育しても良いのか判断がつかなかったので連絡を取ることにした。警察、町内会長、民選委員、ペットショップ、市役所の生活課、市役所の安全課、市役所の市民課、市役所の福祉課、保健所。皆が皆、自分の仕事の既得権益を守りシッカリと仕事をしている事が再確認出来た一日だった』
コレ、たらい回しにされたって事だよね。爺ちゃん、器がでかすぎるだろ。
『鴉は何故鴉と言うのだろうか? 哲学的な事は知らないが気になる。気になるが腹は減る。鴉と烏の違いはなんだろうか? 気になる。気になるが腹は減る。鳥と烏はパッと見では間違えてしまう。改善を望む。腹が減る』
爺ちゃん、腹減りすぎだよ。飯食ってから、日記を書きなよ。
『鴉は英語ではCROW(クロウ)と言う。苦労する鳥なのだろうか? 源 九郎 義経と関係あるのだろうか? 平安時代末期の日本人の名付け親が、英語のCROWを知っていたと思えない。つまり、時空を越えた超神秘的な運命的な宇宙パワーに拠る偶然か』
どっち何だ、凄い力が働いてるのか、偶々なのか。爺ちゃんはどっちだと判断したんだ?
『鴉が卵から孵ってから今日で、はや一カ月、言い換えるとおよそ三十日。そろそろ名前をつけようと思う。立派な名前を付けたいが何がいいだろうか? 鴉のカラは残して、瞳が墨の様に真っ黒だから、カラスミにしよう』
もっと早く、孵化した時に名付けてあげなよ。一カ月を言い換える意味が、無いし。カラスミってボラの卵巣を乾燥させた珍味だよ。
『野生の鴉を観察していて気がついた事がある。ガール&ボーイ。鴉がカーと鳴くのでも一種類だけではなく、複数の種類があるのだ。簡単に記すとカーとカーとカーとカーとカーとカーとカーとカーとカーとカーである』
訳が分からん。コレ書いた爺ちゃん本人にも読み返して区別がつかないだろ。
『鴉に限らず生き物の鳴き声は最低限何種類必要なんだろうか? 仲間への挨拶は朝昼晩共通だとして、餌がある、敵が居る、住処に帰る、逃げる、嘘と本当、他にはハイとイイエが必要だろう。試しに鴉同士の会話を記すならば、以下のようになるか。
鴉A、カー(おはよう)
鴉B、カー(おはよう)
鴉A、カー(餌がある)
鴉B、カー(本当?)
鴉A、カー(嘘)
鴉B、カー(ズコー)
ズコーは必須か』
コッチがズコーだよ。鴉はそんな漫才みたいな事はしないよ。
足音も無く、誰かが近くに居る気配がした。
顔を上げると、そこにいたのは爺ちゃんだった。
「その日記帳は俺にはもう必要ないから、お前にやろう」
爺ちゃんはそういう残して、視界から消えた。
爺ちゃんは歩いて、別の部屋に行ったのだ。
今回亡くなったのは、父方の婆ちゃんだから。
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