マンジュシャゲ
@lero2345
第1話傍観者と化粧鏡
黄昏の光がキャンバスに差し込み、交わりながら滲んでいく。
本物の愛は、一体誰のものなのだろうか。
夕です。
南宫家の娘と言っても、ごく普通の女の子で、特に得意なこともなく、何事もそこそこできればいいやというスタンスで、唯一取り柄と言えば両親から受け継いだ整った顔立ちくらい。毎日不機嫌そうな顔をしているせいで、台無しにしているかもしれないけど。
仕方ないよね。生まれつき活気のない感じだし。表現するのが苦手で、面倒くさがりだから、頭の中では色々考えていても、口に出すのが面倒で最小限の返事しかしない。努力して克服すべきことなんだろうけど、努力が必要ない環境で育っちゃったから。
夢と林、私の双子の姉と二歳上の兄は、「よその家の子供」として噂されるほど優秀。容姿端麗、成績優秀、人付き合いも完璧で、私と一緒にいるときは、私が努力すべき部分を代わりにやってくれる。例えば、夢は昔から私の考えをすぐに察知して、私が何も言わなくても必要なコミュニケーションを取ってくれる。もしかして夢は超能力者?双子特有のテレパシーとか?私は能力が現れてないからよくわからないけど。それから、親や先生から課題が出されるたびに、兄の林はさっさと終わらせてから手伝いに来てくれる。大人たちが呆れて何度も注意しても、ニコニコと応えてこっそり手伝い続けてくれた。
優秀な人は責任感も強いらしく、妹だからきちんと面倒を見ないといけないと思ってるんだろう。よく考えれば、私がこんなに役立たずなのは、甘やかしてくれた林と夢が悪いんだけど、この状況を享受して努力しない私にも責任はあるよね。不公平だわ。夢と私は見た目が似てて林も見分けがつかないくらいなのに、なんで能力差がこんなに大きいんだろう。でも、見た目が似ていても、みんな簡単に私と夢を見分けられる。私の口元に夢にはない小さなホクロがあるから?いやいや、そうじゃない。カップ数が違うから?いやいや、私たち同じくらい小さいよ、このハラスメント野郎。じゃあなんで?うん、もう言いたくない。林に聞いてよ。
そんな私にも今好きなことが一つあって、それは朝のアトリエでの絵描き。アトリエの窓を開けると緑がいっぱいで、窓の位置が良くて、朝の柔らかい光が差し込み、キャンバス前に座る私の体を温かく包んでくれる。それに風がさわやかな空気を運んでくれて、ひんやりしていて良い香りがする。
そんな時間が大好きで、夢もそう。むしろ夢に教えてもらったことで、彼女がよく朝に私を連れて来る。最初は早起きしてアトリエに行くのが嫌だったけど、今ではだんだん好きになってきた。母の趣味を受け継いだと言えるかもしれない。私たちは小学生の頃からここで絵を描いていて、それは父が母を溺愛して家に建てたもの。バルコニー付きの大きな部屋を薄い板で二つの小さなアトリエに区切っていて、母は時々右側の専用アトリエにこもって真剣に絵を描いていた。父は困っていたけど、せめて仕切りが薄いので、時々母の気配を確認できて少し安心できたようだ。
母が亡くなった後、父はほとんどアトリエに行かなくなったので、私は父に母の使っていた小さなアトリエをもらった。毎朝、父が出かける前には神棚のある部屋にいるので、私は朝の支度を済ませるとまずそこに行って父と神棚の家族にひと挨拶してから、このアトリエに来る。今日ももちろん来た。
ここで絵を描いていると、よく昔、三人で隣のアトリエで絵を描いていたことを思い出す。あ、私と夢が描いていて、林は描くよりも私たちが彼を描くためのモデルになるのが好きだった。いや、私たちと言っても、実は林は夢に描いて欲しかっただけかも。私の画力が夢より劣っているからかもしれないけど、重点はそこじゃないと思う。だって私はずっと彼らを見てきたから、ずっと彼を見てきたから、知ってるんだ。林の夢への想いを。
林が夢を好きになったきっかけが何かはわからない。いつの間にか、林が夢を見る目は私とは違う温かさを帯びていた。それに、林は夢の前ではなぜか抜けてしまう。外では明るく爽やかなイケメン好青年なのに、夢の前では、うん……なんだかキモい。
正直、実の妹を好きになるなんて、キモい。実の妹との身体接触に赤面するなんて、キモい。毎日実の妹の話を興奮してするなんて、キモい。妹が一口飲んだ飲み物をためらいながら飲むなんて、キモい。好きな人の話になると慌てて話題をそらすなんて、キモい。キモい。キモい。キモい。夢を好きになっても、遠足でわがまま言う私をおぶって歩いてくれた林も、キモい。夢を好きになっても、いじめっ子からいつも私を守ってくれた林も、キモい。夢を好きになっても、困った時には真っ先に助けに来てくれた林も、キモい。
実の兄を好きになった私も、キモい——
でも、そうは言っても、夕という名の私にチャンスはないってわかってる。たとえ林のことを好きでも、恋する少女のように好きな人に胸をドキドキさせることすらなく、むしろ林の気持ちを自分に向けようと努力したいとも思わない。だって勝てないから。それに私は夢のことも好きだし、好きな二人が一緒になっても、私は悲しまないだろうか?わからない。ただ、読んだ小説の負け犬少女たちはみんなそうやって豁達だった。私もそうだと思う、そうでありたいと思う。
兄と呼ぶのをやめて名前で呼ぶのは、この想いにかたくなな意地を見せているだけ。林は少し困惑しているけど、妹の小さな反抗として笑って受け入れてくれている。夢については、夢がまったく気づいていないとは思わないけど、この想いはバレていないことにしよう。バレる必要もない。だって私は、南宫夕はただの傍観者でいるつもりだから。一番近くで、大好きな王子様と姫様の完璧な演出を見守る傍観者。でも、見ているときにたまに心でツッコミを入れたり愚痴ったりしても、いいよね?うん、いいはず。見た目的にも私は姫様なんだから、少しわがままを言っても許されるよね、うんうん——
アトリエでしばらく絵を描いた後、時計を見て、そろそろかと思った。立ち上がってキャンバスを覆い、傍らの机の上で化粧箱を探すと、本の下に押し込まれていた。化粧品を取り出してさっと化粧をし、化粧鏡でキレイに隠せているか確認する。うん、いい感じ。今日の私もとっても可愛い。ちょっとした化粧で気分が一日中良くなるなんてお得だわ。背伸びをした後、小さなアトリエのドアを開けて、ゆっくりと立ち去る。
三分後、アトリエの扉が開く音と、それに伴って、明るくてちょっと騒がしい、私の好きな林の声が聞こえてきた。
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