消しゴム
久遠悠羽
消しゴムのおまじない
昔『好きな子の名前を消しゴムに書き、誰にも見られずに最後まで使い切ると恋が叶う』なんていうおまじないが流行った。
消しゴムケースに隠れる部分に名前を書いておけばいい、なんて言われていたけれど、いざ使ってみて小さくなってきたらケースもハサミで切っちゃうし、少しは出しながら使うからバレちゃうよね、なんて友達と言い合っていた。
私、
だってもし誰かに見られても
「あ、天使っぽくて可愛いでしょ?最近こういう絵を練習してるんだ」
なんて言って誤魔化せるから。
その場合はまた新しい消しゴムを買って最初からやり直しなんだけど……今回はかなり小さくなる所まで使い込んでこれた。
翼の絵は端っこに描いてあるからまだ削れてこない。
そして想いは通じ始めたのか、高3で彼とやっと同じクラスになる事が出来た。
しかもこの前の席替えで、なんと隣の席になったのだ!
ああもう……毎日好きな人が隣にいるなんて。
神様は私を勉強に集中させない気なのですか……
自分の横で、彼が休み時間に来る友達と談笑している。
屈託のない笑顔が眩しすぎますが……?
その日は定期テストの日だった。
私は時間がなくて焦っていた。答案用紙の間違いを消すために、小さくなった消しゴムをいちいちケースには入れていられない。
中身だけの消しゴムを翼の絵の側を伏せるようにし机に置く。
必死で解いていたら、突然監督をしている先生の声が響いた。
「後、5分——」
その声に驚いて顔を上げた私は、勢いで消しゴムを落としてしまった。
それはコロコロと隣の藤井君の足元まで転がる。
しまった。
でもテスト中は席を立って拾いに行くことは出来ない……気にしながらも解答を進めて行った。
「山内。これ……」
休憩時間に入った時、彼が私の消しゴムを渡してくれた。
「あ、ありがとう」
……見られたかな……でも何かは分からないだろうし、いいか。
次は現国の試験だった。
さっきよりも消しゴムを使う機会が多い。
あまり勉強が得意じゃない私でも集中して答えを書く。
ああもう、国語ってどうしてこんなに沢山文章を書かないといけないの……
その時私の足元に、コツンと何かが転がって来た。
見ると小さくなって来ていた消しゴムだった。
隣の藤井君が赤くなってごめんという仕草をする。
彼が落としたみたいだった。
机の上には予備の消しゴムが見える。
じゃあ、大丈夫か。
後で返してくれということなんだろう。
でも何故赤くなってるの……?
私は何気なくその消しゴムを拾って見た。
少し黒ずんで来たその面に、赤いペンで『楓』の葉の絵が描いてあった……
それを見た瞬間、胸がぎゅっとなって、答案用紙の文字が全部飛んだ。
消しゴム 久遠悠羽 @KuonYuhane
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます