1章-2話② 黒棒と初スキル!?

---《表通り*スキル店》


「いらっしゃい、ビギナーだねアンタ。ヒヒ♪」

胡散臭い、アンクの婆さんが薄気味悪い笑顔で出迎えてくれた。


「訓練所の教官に聞いて来たんだけど。俺にも使えるスキルってあるかい?」


「アンタ、棒術だね?色々あるよ。ヒヒ♪」


【彗星5段突き】5000万ギル

【会心連撃打ち】8000万ギル

【メテオ流星群】9500万ギル


ディスラナイトの目が飛び出る。動揺を隠せずに、婆さんに聞いてみる。


「ご、5000ギルくらいのやつ、ないっすかね?」


「なんだテメー!貧乏人間か!!愛想良くしてバカだったよ!!」

すごい険悪な顔でこちらを睨む婆さん。


「低単価のゴミスキルなら、その樽の中だよ!!その中なら一律1000ギル!!貧乏人にはお似合いだよ!!」


「ワゴンセール、いや樽セールかい!」

思わずツッコんでしまったが、使い方次第で化けるやつあるかもしれないと樽を漁る。


【育毛】

【微風】

【動体視力】

【柔軟】


あってもなくても変わらないスキルのように感じる。渋い顔をしていると婆さんが言う。


「ゴミって言ったろ!」


そう言われても、ディスラナイトは樽の中をゴソゴソしていたら、樽底に分厚いスキル書を見つける。


「おっ!?これは…」


「はん!それかい?ただの分厚い本だよ。誰が言ったかは知らないけど中身の無い本。スケルトンブックさ」


「これ、買うよ」

なぜか、この本に賭けてみようと思ったディスラナイト。


「買うのはいいが、返品・返金は受け付けないよ!」

店を出る前に婆さんは、俺を睨みつけながら怒鳴った。


---《表通り*噴水前広場》


噴水の縁石に座り、スキル書を取り出す。


「さて、スキル習得しますか!」

スキル書を広げて、手形が書かれたところに手を合わせる。


【基本スキル*動体視力】習得

【基本スキル*柔軟】習得


周囲の景色がくっきり見え、眼球がよく動くようになり、ストレッチすると身体はよく伸びた。


「うん、うん、こんなもん、こんなもん」

強さとは無縁かもしれないとは思いつつ、ディスラナイトはなにも感じないように努力をする。


次はスケルトンブックを手に取る。他のスキル書と比べてかなり分厚い。


ディスラナイトがページを巡ろうとしたら――。


顔を真っ赤にしながら、力ずくで本を開こうにも一切開く気配はなかった。


「まあいいや、これからも、やれることする!という事にしよう!」


「ハハハ!!前向いていこーじゃないの!」


気を取り直して金策をしに、街の外に出て、ゴブリンを探すことにする。


---《初心者エリア》


「ふふふ、ゴブリンよ。以前の俺とは違うんだぜ!」


「先手必勝!!」【打ち下ろし】ドンッ!


ゴブリンの頭部に一撃。

ゴブリンは反撃もできぬままに消失した。


「悪!即!斬!」

「1回これ言いたかったんよなぁ」


この後、2時間ほどゴブリン狩りをした。


ゴブリンの行動パターンを覚えてしまえば、ヌルゲーのマンネリ化になり、緊張感が解けてしまう。


「ヌルゲーすぎて睡魔がやべぇ、やっぱゴブリンは単なる初心者御用達仕様かなぁ」


「ドロップもレベルアップも一切しないし」


草原の風が額の汗をさらい、耳元で鳥の鳴き声が響く中、マンネリ化した狩りのリズムが身体に刻まれる。


草原を歩きながらブツブツ独り言をつぶやいてると。


「ガルルゥ」


ゴブリンではない、唸り声が聞こえる。一気に緊張感が高まり顔が強ばる。しかし、未知との遭遇に高ぶる好奇心は抑えられず、唸り声の聞こえる方向へ、音を立てず、ゆっくりと忍び寄る。


唸り声の主を見つけ、ジリジリと忍足で背後に近づいていく。


――グリンッ!――

ヘルドックがこちらに顔を向ける。


ヘルドッグがディスラナイトを視認した瞬間、すぐに飛びかかってくる。


「くそっ!気づかれたかっ!!」

慌てて攻撃をするディスラナイト。互いの攻撃は交差するように空を切った。


心臓がバクバクと鳴り、黒棒を握る手に、汗が滲んでいくのがわかる。その感覚が、ディスラナイトをさらに緊張させる。


(こちらの手札は打ち下ろしのみ、それしかないとバレたら――)


ダンスでも踊っているかのように、思考が目まぐるしく回る。

思考のダンスが導き出したのは、一撃で倒すしかない、一撃に全てをかけるしかない。


その気負う気持ちが、さらに身体を硬くさせる。

間合いを取り合い、視線を外さずに睨み合う。


互いが自分にとって最善の手を、頭の中でシミュレーションしている。


――次第に、お互いの呼吸が揃いだす。


「ガルッ!!」

ヘルドッグが飛びかかってくる、ディスラナイトも同時に攻撃を繰り出す。


「うおりゃあ!」【打ち下ろし】ドグシャ!!


ヘルドックの身体を鈍く引き裂いた。


「くう…マジ緊張感やべぇな……」


その緊張感の虜になり、ディスラナイトは疲れ果てるまで、狩りをしてから街に戻り、ログアウトした。


---《ログアウト》


VRカプセルから身体を投げ出し、仰向けに転がり部屋の天井を見つめる。


視界の隅には、まだ赤いHPバーが残っている気がする。身体に残る戦闘の残滓が、現実でも心拍を早める。息を整えながら、落ち着けと一言呟く。


「絶対に成り上がる――」


その誓いを胸に、俺は疲れ果て眠りへと沈んでいった。


--- 1章-3話①へ続く

---【毎週月・水曜21~22時頃更新!】

読んでくれてありがとう!感想やコメント、レビューをもらえると本当に嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る