第15話『魔王ちゃんと追放ざまぁ その1』
「ふふふ~ん♪ ふんふ~ん♪」
ご機嫌な
描いてるのは、この前読んだマンガのワンシーン。
主人公は後輩の男の子と職場恋愛してるんだけど、それは周りにはナイショで。
だから週末になると、二人とも我慢してた恋心が爆発しちゃうの!
普段はキリッとした女上司の主人公、
逆に普段は頼りない後輩部下、
タイトルは『週末の彼氏』。
めっちゃキュンキュンしちゃうお話でした!
「……っと、できたーっ! ねーバルギウス、見て見てー!」
と、傍らで本を読むバルギウスにずいっと絵を突きつける。
やれやれ……といった感じで彼はパタンと本を閉じると、アタシの絵に目を向けた。
少しの間のあと、その口が大きく開かれる。
「ほう、これは素晴らしい!」
「でしょでしょー!」
アタシは胸を張った。
主人公の
二人とも太陽みたいな笑顔で、とってもキラキラしてた。
これ、『週末の彼氏』で一番好きなシーンなのだ。
いつかアタシも勇者たんとこんな風に……。
ってね、えへへー♡
バルギウスはクイッと眼鏡を上げた。
「この、女ゾンビが男性の喉笛に噛みつこうとしているシーン、逃げられない恐怖と絶望がひしひしと伝わってきます。……そうですね、タイトルは『終末
「むっきー! ぜんぜん違ーう!!」
タイトル、なんでそこまでカスってくるの!
しかも、そう言われると自分でも『終末
そんなアタシの気持ちをよそに、バルギウスは再び本に目を落としてる。
むー、コイツは……。
「……ちょっと、なに読んでるのよー?」
「本日は追放ものの作品ですね」
「追放もの?」
「はい。実力はあるのに認めてもらえない主人公が、理不尽な仕打ちでリーダーから追い出されてしまいます」
「なにそれ、酷すぎ!」
「ですが、それを転機に主人公は急激に成り上がっていきます。一方で追い出したリーダーとその仲間は、どんどん没落していくという爽快な物語です」
「え、それ、めっちゃ面白そう!」
玉座から身を乗り出したアタシに、バルギウスは持っていた本を差し出してきた。
「ふふ、アイラ様もお読みになってみますか?」
それから1時間後……。
「ぷはー、面白かったー!」
読書を終えたアタシは勢いよく顔を上げた。
追放ものって、「こうなるだろうな」とか「こうなってほしいな」という期待にしっかりと応えてくれるのね。
おかげでストレスフリーだし、スカッとした爽快感もある。
きっと今のアタシは、お肌ツヤツヤだ♪
「お楽しみいただけたようですね」
「うんっ!!」
バルギウスの言葉に、アタシは笑顔で応える。
「やっぱね、逆境だった主人公がどんどん成り上がってくってのがよき! で、理不尽に追い出した方はちゃんと報いを受けるってとこもまたよきー!」
「フフッ、アイラ様も追放系の魅力に気付いて頂けたようで何よりです」
「うんうん! リアルでもそんな展開あったらいいのになー!」
「リアル……ですと?」
その瞬間、バルギウスの眼鏡がキラリと光った。
ニヤリと笑う口元。
あれ……アタシ、また何か言っちゃいました?
「〈
バルギウスは高らかに魔法を唱える。
目の前に光が集まって……その中から脚付きの白い板が現れた。
「これは〝
自慢げに語る彼。
たぶん、最近開発したモノなんだと思う。
「それでは、実際に追放ものを再現するにあたって、その定義をいくつか書き出してみましょう」
追放ものの流れ。
【理不尽な追放】
これにより読者の
↓
【再スタート】
新たな場所で心機一転。
↓
【自分を理解してくれる者との出会い】
自分の居場所が見つかる。
↓
【追放した者の没落】
主人公を失ったことでその組織の存続が難しくなる。
そこで初めて主人公の有能さに気が付く。
↓
【ざまぁ!】
主人公が追放した者と再対面し
溜め込んだヘイトを一気に解消させる、読者が最もスカッとするシーン。
「――と、ざっとですが、このような流れになっています」
「ふむふむ」
「最後の【ざまぁ!】は重要です。この出来次第で、爽快感が大きく変わりますからね」
「なるほど!」
だから、ざまぁ展開は人間たちの
「それでは配役を決めていきましょう。主人公はもちろんアイラ様として、アイラ様を追放する理不尽な者は誰にしましょうか?」
「理不尽な者……」
頭の中に浮かぶ人は……。
「なんですアイラ様。私が理不尽とでも?」
「あ、や……ねぇ?」
思わず苦笑いを浮かべたアタシに、バルギウスはなぜか胸を張った。
「いいでしょう! 私がその役目を引き受けましょう!」
「え、いいの?」
「もちろんです。というわけでアイラ様、このダメ魔王!
突然の追放キター!!!
「って……アタシ、ここの
「おっと、そうでした! このバルギウス、魔王に対してなんたる
「え! ど、どういうこと!?」
「さらばです、アイラ様! ハーッハッハッハ!!」
ちょっと待って!
と手を伸ばすけど、バルギウスはそれをヒラリとすり抜ける。
そして、背中に翼を生やし高笑いと共に窓から飛び去っていった。
ぽつん……。
と、部屋の中に取り残されるアタシ。
行き場をなくした
「えっと……これで【理不尽な追放】達成でOK?」
アタシは息を吐くと、玉座に座り直す。
不意に一人きりになった部屋は、なんだかとても静かに感じる。
で、この後の展開は【再スタート】だけど……。
――待つこと1時間。
――更に2時間が経ち。
――あっという間に半日が過ぎたとこでアタシは叫んだ。
「なーんにも起こらないんですけどっっっ!!!」
待ってる間に描いてみた『週末の彼氏』のイラストは、何を描いても『終末逃れ死』にしか見えなくなっちゃったし!
やっぱ、追放して正解だったかも?
「むきーっ!」
感情のままに玉座を揺らしていると、そこに伝令の者が飛び込んできた。
「アイラ様、勇者の襲来です!」
え、勇者たん!?
「まもなくこの玉座の間に到達すると思われます!」
「ふふふ。飛んで火にいる夏の虫とはこのことね」
勇者という光に誘われたアタシは、恋の炎で大惨事ー的な?
もー、やめてよ、勇者ったらー♡
「わかった、報告ご苦労様。もう下がっていいわ」
にやけてしまいそうになる顔を抑え、できるだけクールに伝える。
魔王が勇者に恋してることは秘密なのだ。
伝令の者が部屋から出ていくのを見届けたアタシは、勢いよく玉座から立ち上がる。
「さぁ、バルギウス! 迎え撃つわよ!」
そう言って、自慢のツインの髪を掻き上げた。
……だけど、その言葉に応える者はいなくて。
「あ、そっか。バルギウスはいないんだった……」
いつもみたいに頼ることはできない。
今日は全て自分でやるしかない。
〈
一人という緊張から胸の鼓動が早くなる。
大丈夫、大丈夫……。
そう自分に言い聞かせ、高鳴る胸を押さえて深呼吸。
問題なんてない、これまでと同じようにやればいいだけ。
アタシならできる。
アタシ一人で再スタートだ!
……って、ん?
【再スタート】達成??
~その後の魔王アイラ&勇者ユウ~
「……あ! バルギウスがいないってことは、勇者と二人きりじゃん!? これって——。
『今……うちに誰もいないの』
——ついにそういう流れですかー!? 勇者たんと二人っきりのおうちデート……って、ヤバイって、ヤバイってー!! もー、勇者ったら大胆なんだからぁ! きゃ――――♡♡♡」
「……えーと、魔王?」
「――んはっ!?」
「もう入ってもいいかな?」
「ゆ、勇者、今の見てた?」
「うん。遠過ぎて何を言ってるかは聞き取れなかったけど、くねくねと不思議な踊りを踊っているのはわかった」
「え、えーと……それは……」
「……ハッ!? そうか、呪いの踊りを習得したのか! さすがだな魔王、だけど僕だって引くわけにはいかない! 行くぞ、うおおーっ!」
「伝わってなくて良かったけど、ぜんぜん良くなーいっ!」
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