シーン18 ファルナ
報告を聞くまでもなく、ファルナは自軍の不利を悟った。
原因は明白だ。兵の数が違う。
どこかが崩れたわけではないし、敵にグラニのような優れた個がいるわけでもない。ただ単純に質の高い兵が数と魔力を惜しまずに丘に迫っている。
「第一防衛ライン突破されました!」
前線から駆けてきたケンタウルスの兵士が叫ぶ。
息苦しさを感じた。
丘の下から迫る力が軍を、ファルナを圧し潰すようだった。
もう防御魔術を展開してどれだけの時間が経っただろう。
汗が地面に水溜まりを作るほど流れていた。
本来ファルナの魔術はそれほど魔力を消費しない。魔素の少ないザラメルギスでも安定して運用できるように自ら術式に手を加えて燃費を良くしてあるからだ。
それでも天を覆う規模を維持し、エイドの強力な魔術を防ぐには膨大な魔力が必要だった。
「……ここまでですね」
触媒にした腕輪の魔石がだんだんと光量を落としている。ファルナがいくらまだいけると思っていようとも、彼女の知識が限界だと教えている。魔力が不足すれば魔素を補うために呼吸は荒くなり、体力がなくなれば体はふらつく。
視界がぼやけ始め、ファルナは最後の覚悟を決めた。
「爺……いえ、グラニ・レグ・カッソー卿」
「ここに」
老ケンタウルスにいつもの威厳はなかった。
彼の顔には割り切れない思いが苦い表情となって表れていた。
「蹄鉄隊の準備はよろしいですか」
「いつでも出られます。しかし、私どもがいなくなれば殿下の守りが弱くなります。大事な御身、せめて私だけでもそばに置いてはくださいませんか」
「いけません。勝利のためです」
「勝利……」
「この作戦は蹄鉄隊がどれだけ早く敵にたどり着くかにかかっています。真意に気づかれてもなりません。それを為すにはグラニ、あなた以外にできる者はいません」
グラニは顔を伏せた。
「ずるい御方だ。そう言われては断れない」
「心配せずとも私もすぐに撤退します。あなたが心配するほど残された者たちは弱くはありませんよ。獣人の力を借りれば夜もまだ明けないうちに逃げることができるでしょう。後は本隊に合流するだけです」
ファルナは青ざめた顔で微笑んだ。
「さあ、行きなさい。その迅雷の名のごとく」
たとえファルナの言葉や行動が演技だとしても、グラニは行かねばならない。
彼女こそがザラメルギスを導く者であると信じ、忠義を捧げると誓ったのだから。
両手の槍に雷の光が灯る。
「我が槍にて敵を討ち果たしてご覧に入れましょう」
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