第7話「村人との確執と雪解け」
僕たちが暮らす小屋は、辺境の小さな村から少し離れた場所にあった。村人たちは、よそ者で、しかも元貴族だという僕を、あからさまに警戒していた。厳しい辺境で生きてきた彼らにとって、僕のような男は、自分たちの生活を脅かす異分子でしかなかったのだろう。
村へ食料の交換に行っても、彼らは僕を遠巻きに見るだけで、決して目を合わせようとはしない。陰で「王都から追い出された厄介者だ」「カイ様も物好きだな」と囁かれていることも知っていた。悔しいが、今の僕には何も言い返すことができない。
カイは、そんな村人たちの態度に何かを言うわけではなかったが、僕が一人で村へ行く時には、必ず黙ってついてきてくれた。彼の存在が、村人たちの敵意を和らげる防波堤になっていることは明らかだった。
転機が訪れたのは、月光草が順調に育ち始め、僕が他の薬草の栽培にも手を出し始めた頃だった。カイに教わりながら、僕は解熱作用のある薬草や、傷に効く薬草を育てていた。僕の魔力のおかげか、それらの薬草も驚くほどの効能を持っていた。
ある日の夕暮れ、一人の村人が血相を変えて僕たちの小屋に駆け込んできた。彼の幼い息子が高熱を出し、何日も意識が戻らないという。村のけちな医者には、もう打つ手がないと見放されたらしい。
「カイ様! お願いです、助けてください!」
男はカイにすがりついたが、カイは僕の方を静かに見た。
「薬草に詳しいのは、こいつだ」
村人は戸惑いの表情を浮かべた。つい昨日まで蔑んでいた元貴族に、息子の命を委ねなければならないのだ。彼はしばらく葛藤していたが、やがて僕の前に膝をつき、額を地面にこすりつけた。
「お願いだ……! 息子を、息子を助けてくれ……!」
僕はためらわなかった。すぐに育てていた解熱作用のある薬草を調合し、彼の家へと向かった。子供は真っ赤な顔で、苦しそうに喘いでいる。僕は慎重に煎じた薬を飲ませ、濡れた布で体を拭いてやった。
一晩中、僕は子供のそばで付きっきりで看病した。カイも、何も言わずに隣にいてくれた。
夜が明け、朝の光が部屋に差し込んだ頃、子供の熱は嘘のように引き、安らかな寝息を立て始めた。「……かあさん」と小さな声で母親を呼んだ時、夫婦は泣きながら僕の手にすがり、何度も感謝の言葉を口にした。
この日を境に、村人たちの僕を見る目が変わった。警戒は解かれ、少しずつ話しかけてくれるようになった。僕が育てた野菜や薬草を、彼らは喜んで受け取ってくれる。
僕がカイと畑仕事に真摯に取り組む姿、そして二人の間に流れる穏やかな信頼関係が、頑なだった村人たちの心を、ゆっくりと溶かしていったのだ。僕はこの時、初めてこの辺境の地に、自分の居場所ができたような気がした。
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