追放された偽αはΩとして覚醒、辺境で元騎士団長の運命の番と出会い溺愛される
藤宮かすみ
第1話「追放宣告」
「アレクシス・フォン・ヴェルグナー! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」
シャンデリアの眩い光が降り注ぐ王宮の大広間に、第一王子アルフォンスの怒声が響き渡った。きらびやかなドレスや豪奢な軍服に身を包んだ貴族たちが、一斉にこちらを振り返る。その視線は、好奇と侮蔑と、そしてわずかな憐憫が混じり合った、針のような鋭さで僕を貫いた。
僕、アレクシス・フォン・ヴェルグナーは、この国の公爵家の嫡男。幼い頃からエリートαとして、未来の王妃となるべく育てられてきた。文武両道、非の打ちどころのない完璧な人生。そのはずだった。今、この瞬間までは。
アルフォンスの腕の中には、か弱い小鳥のように寄り添う少女がいる。平民でありながら、類まれなる聖なる力に目覚めたとされる聖女イザベラ。彼女は濡れた瞳で僕を見上げ、アルフォンスの胸に顔を埋めた。その震える肩が、僕を極悪非道な罪人へと仕立て上げていく。
「イザベラがどれほど貴様に虐げられてきたことか! その清らかな心を嫉妬の炎で焼き、幾度となく辱めてきたそうだな! 聖女を虐げるなど、万死に値する!」
身に覚えがない。まったくの事実無根だ。嫉妬? 僕が彼女に? ありえない。だが、僕の反論は、興奮した王子の耳には届かない。貴族たちのひそひそ声が、波のように広がっていく。
僕が本当に守りたかったのは、彼女ではなかった。イザベラの侍女として影のように仕え、聖女の気まぐれな暴力に耐え、いつも痣だらけだった名もなきΩの少女だ。あの日、彼女を庇ったところを、運悪くイザベラに見られてしまった。それが、この茶番の引き金だろう。だが、ここでその事実を口にすれば、あの子に危険が及ぶ。
「……申し開きは、ございません」
唇を噛み、そう答えるのが精一杯だった。
僕の答えを聞いたアルフォンスは、満足げに鼻を鳴らし、最後の宣告を突きつける。
「公爵家の籍を剥奪し、貴様を国外追放処分とする! 二度と、この国の土を踏むことは許さん!」
国外追放。それは貴族にとって死刑にも等しい罰。地位も、名誉も、財産も、すべてを奪われる。父も母も、冷たい目で見ているだけで、助け舟を出そうとはしない。彼らにとって僕は、家の名誉を汚した出来損ないでしかないのだ。
衛兵に両腕を掴まれ、引きずられるようにして夜会の間を去る。色とりどりのドレスが、嘲笑うかのように滲んで見えた。突きつけられた絶望の中、僕はただ、あのΩの侍女の無事を祈った。それが、今の僕にできる唯一のことだったからだ。
真実を胸の奥深くに秘め、たった一人、すべてを奪われ、僕は慣れ親しんだ王都を去った。
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