第11話夫婦の絆と子育てと

 幸人と早苗は仲の良い幼馴染から始まって、熱い思いを抱き合う恋人になり更にそれから確かなる気持ちと絆で結ばれた夫婦になると言う、かなり不思議な経歴を持っていたが、ただし。


 基本的には相思相愛で深く愛し合っていた彼等であったが常に仲が良かった訳では無くて、やはりたまには喧嘩をしたり衝突する事もあった、殊に早苗は例え自分の惚れた相手だとしても幸人が間違っている、と思えばキチンとそれは指摘する事の出来る度量と気概のある女性であり、尚且つ幼馴染の強みで小さな頃から様々な物事を、互いに色々と言い合う関係であった事も手伝って時折、幸人をヤキモキさせる事があったのだ。


 そしてそれは二人の間に赤児が生まれ、“子育て”が始まってからは特に遺憾いかんなく発揮される事となったが今現在、彼等の間には長男長女の晴人と雨音、次男次女の正人と清音、そして三男三女である和人と風音がいたのであるモノのこの内、正人と清音が生まれてから暫くの間は間違いなく、早苗の主な愛情的関心は夫から双子へと移ってしまっていた。


 これは子供を産んだ感動と我が子に出会えた歓喜とに端を発する事象であったが、そんな彼女にとっては何事に於いても最優先はまず子供達であり、夫の事はどうしても二の次、三の次になってしまって、しかも幸人も早苗も長男長女である晴人と雨音の事を我が手で育てられなかった悔恨の念から“どうしても自分達の手で子供達を育てる”と言う思いに固執してしまっていたのだ。


「ああ、いけない。おしめを替えないと・・・!!!」


「大丈夫だよ?僕がやるから・・・」


 勿論、どうにもならない場合は周囲の手を借りる事もあったがそれでも子供達の面倒を見ていたのは主に幸人と早苗の二人だったのであり、彼等は互いに協力し合いながら育児に邁進していったのである。


 ただし。


 早苗はともかく幸人の場合はどうしても仕事や任務があったから、その合間合間を縫うような形でしか子育てに参加する事が出来ず、また如何に優しくて暖かな男だとしてもやはり、母親の持つ我が子への愛情に勝るモノ等はなくて、幸人ではどうしても、上手くあやしきれない場面が出て来てしまう。


「もうっ、何をやっているのよっっっ!!!!!」


「ご、ごめん・・・」


 そうした場合は、結局は早苗が世話をやかなければならずに結果として増え続ける精神的、肉体的な負担からついつい夫にキツく当たってしまう事が増えていった。


 殊に彼女は幸人が執務している最中等はほぼほぼ一人で育児をこなさなくてはならず、自分の時間が持てない事も手伝って心身の疲労が溜まる一方だったのだ。


「ねえ早苗。あの、その・・・。後は僕がやっておくから少し休んだら?昼間も全然、休めて無いんだろ?」


「うん、有り難う・・・。でも私がいないとこの子達は泣き止まないし、あなたじゃ上手くあやせないでしょ?」


「・・・・・」


 勿論、彼女は夫が一生懸命に子育てに参加してくれているのは知っていたし、事ある毎に自分を気遣ってくれている事も解っていた、それはとても嬉しくて有り難かったがしかし、やはり“この子達には自分が必要なんだ”、“私じゃなきゃダメなんだ”と思うと夫に対するそれよりもむしろ子供達に悪くて素直に“休みたい”と言う事が出来なくなってしまっていった。


 そんな愛妻に対して幸人は出来得る限りのサポートを行って、なんとか早苗の負担を和らげようと試みた、それだけではない、いつも何くれとなく“頑張ってくれて有り難う”、“無理をさせちゃってごめんね?”等と労いの言葉を掛けてはとにもかくにも妻とコミュニケーションを取りつつ支え続けて、子育てに於いてはせめて彼女と“戦友”であろうとしたのだ。


 そう言った彼の真心は、ちゃんと早苗にも伝わっていた、彼女も流石に悪いと思った、いつもいつも、と言う程ではないにしても夫の事を悪し様に言ってしまうのは心が痛んだ。


 だけど。


「もうっ。私がやるから良いってばっっっ!!!!!」


「ご、ごめん・・・」


 愛情の中心が子供に移ってしまっていた当時の彼女にとって、幸人の行動はどうにも生温いと言うか、いっそわずらわしく感じて時折、うとましささえ覚える事があった、それまでは“もう、困った人ね・・・?”だとか“しょうがないんだから・・・っ❤❤❤”で済んでいた事が一々文句を付けなければ気が済まないようになってしまっていたのである。


 だがしかし。


 一方で幸人はこうなる事を初めから覚悟していた、彼は子育ての難しさや産後の妻の心境の変化に付いて、親友である龍助や鉄平、あるいは父である亮介及び、その他村の経験者達から嫌と言う程聞かされていたし、それに何より。


 早苗に対して散々甘い言葉を吐いていながら彼は知っていたのである、この世に於いては多分“絶対は絶対に無い”のだと言う事を、そして“永遠に続く永遠”等と言うモノもおよそ存在し得ないのだ、と言う事を。


(・・・例えば。もしこれが宇宙のより深淵にあるとされている“あの世”だったり、はたまた“神々の世界”であれば、“真なる永遠”や“絶対的な愛情”も存在するかも知れないけれど)


 “この世に於いては無理難題だな”等と彼は考えていた、しかし一方で幸人は“自分達は確かに真なる愛に触れたのだ”とも感じていた、恋人同士だった頃や結婚したての目眩めくるめく官能の日々。


 任務で忙しく、長男長女の世話を自分達の両親や義両親に任せっ切りにさせてしまった後悔と、“一番大変な時期に我が子に充分な愛情を注いでやれなかった”と言う後ろめたさから“もう一度子供を作りたい”と言う建前で、何度となく肌を重ね合わせた、蕩けるような情夜の追憶。


 そのいずれもの場面で幸人は早苗をキツく抱き締めては己の猛烈さを遺憾なく発揮して煮え滾る思いの丈を彼女の奥深くへと、数え切れない程にまで撃ち放っていったがその途上で、花嫁は何度となく激しい快楽の頂きへと昇り詰め、汗に塗れた体を揺らしては花婿の事を受け止め続けた。


 否、それどころか自分から腰を使って膣奥を締め付け、彼を貪るようにもしたのであったがその瞬間は夫婦はとても満たされて確かに永遠を感じる事が出来たのだ。


 それは単なる肉体的な愉悦を覚えたからではない、お互いのお互いに対する凄絶な迄の愛しさと共に、体と心に加えて魂すらも同調させては重なり合わせていた為に引き起こされて来た現象であった。


(あの一瞬は、僕らは確かに“愛の本質”に触れる事が出来ていたんだ。この世に於いてはその一瞬一瞬こそが永遠となる。“確かにあった出来事”として宇宙にずっとずっと記憶されて行くのだから・・・)


 そんな事を考える幸人はしかし、間違っても自分を悲劇のヒーローで終わらせるような生易しい人間では無かった、勿論、生まれてきてくれた我が子達は可愛かったが彼にとって一番大事だったのは、一番の生き甲斐だったのはやはり愛妻だったのであり、どうやって彼女の心を取り戻そうかと彼是あれこれと思案を巡らせていたのだ。


(今ならばまだ、早苗の心の奥底では僕への思いが生きている筈だ。僕は嫌われた訳では無いんだ、勝算は充分にある・・・!!!)


 そんな彼が最終的な手段として選んだのが“セックス”であった、それを通して夫婦で愛し合う事の素晴らしさと蕩けるような官能とを今一度早苗に思い出させると同時に自身の彼女に対する思いの丈を、体を通して直に体感してもらおうと試みたのである。


 “自分達がこれまで積み重ねて来た時間は、築き上げて来た思い出やエピソードの数々は必ずや自分達を導いてくれる”、“子供達に負けない位の熱い思いを早苗は必ずや心の奥底に秘めてくれている筈だ”と、彼は考えたのであった。


「なあ早苗・・・」


「・・・なによ幸人、どうしたの?」


「今晩、抱かせてくれないか・・・?」


「え・・・っ!!?」


 ある日の事。


 唐突に掛けられた夫からの言葉に早苗は一瞬、たじろぐが彼女は意外に思っていた、夫婦の間に子供が入った事で正直、幸人の事を“夫”よりも“父親”として見てしまっていたし、幸人も多分、そうだろうと思っていたのである。


 ましてや自分は幸人に対して何度かいらつきや怒りを露わにしてしまっているから、もう昔みたいに情熱的に迫ってくれる事は無いかも知れない、自分は女として見られていないかも知れない、等と考え倦ねていたのだ。


 勿論、彼女だって幸人が何くれとなく自分を気遣い、彼是あれこれと心配りをしてくれているのは知っていた、そしてそんな時はとても心が温まると同時に己が安らぐ瞬間でもあったが今回、改めて“愛の営み”へと誘われた事で早苗の胸はかつてのようにときめいて、幸人に久方振りの男を感じてドキマギしてしまっていた。


 そうだ、幸人が直感した通り早苗は確かにまだ幸人の事を心の底では愛し続けていたのであり、その情熱の炎がくすぶり続けていたのである。


 それは取りも直さず、それだけ濃厚かつ確かなる愛しさを、二人が重ねて来たと言う証に他ならなかった、子供が産まれようが何が起ころうが決して断ち切れない絆が、揺るぎない縁が夫婦を結び付けていたのである。


 しかし。


「ごめんなさい、今日はその・・・。ちょっと疲れていて・・・」


「どうしてもそう言う気分になれないの・・・」


 間違いなく喜びを覚えた早苗ではあったが体調面での問題と心理状態の周期的不安定さから来る行き違いの為に中々にタイミングが合わずに何度か断らざるを得ない場面が出て来てしまう。


 ところが。


 幸人はそれでも決して諦めなかった、粘り強く、かつ辛抱強く彼女にアプローチを繰り返して行き、そして正人と清音が生まれてから半年近くが経った、ある日。


 遂に彼の努力が実を結ぶ日かやって来た。


「早苗、今日は良いだろ?ずっと我慢してたんだ。だから・・・」


「ええっ!!?う、う~ん。まあ良いけど、それじゃあ子供達を寝かし付けたらね・・・?」


 度重なる夫からの誘いを断り切れずに若妻は戸惑いながらも彼に抱かれる事にした、幸人はまだうら若き青年であり、尚且つ逞しい男でもあったからそう言った事も早苗の胸を高鳴らせる一因となっていたのだ。


(幸人は私を、女として見てくれていたんだ・・・!!!)


 その事が何より嬉しかった、自分が大事にされていた事は知っていた、幸人は早苗から何を言われても絶対に怒らなかったし、彼女に当たり返す事もしなかった。


 それどころかいつも優しく微笑んでくれて、静かに声を掛けてくれていたのだ。


 だから。


 悪し様な態度をとってないがしろにし続けた事を本当は彼に謝りたかった、それも軽くでは無い、しっかりと真正面から真摯に贖罪しょくざいの言葉を述べたかったが、どうしても彼女はいざその時になると“さっきはゴメンね?”、“ちょっとイライラしてたの・・・”の一言以上が出せなかった、“母親としての矜持”や“女としてのプライド”が邪魔をして中々に素直になれなかったのだ。


 そんな彼女を見て1回だけ、幸人が悲しそうに微笑んだのを見た、“ああ、傷付けてしまっているんだな・・・”と感じて心が痛くなったがそんな日々を送っていた彼女はだから、幸人が自分をこんなにも必死になって誘ってくれるとは思わなかった、“まだ自分は女として見てもらえているんだ”、“ちゃんと愛してもらえてたんだ・・・!!!”と感じて気持ちが昂ぶり、何より女としての喜びを覚えてその日はきっと自分の中では忘れられない1日になるだろうな、とも思った。


「もう・・・っ。そんなにしたかったなら、その・・・。素直に言えば良いじゃないの・・・!!!」


「ゴメンね?早苗。だけど君も疲れているっぽかったから、なんとか折りを見て話そうと思ってさ・・・!!!」


 彼に対するトキメキと、嬉しさの裏返しである照れ隠しの為に頬を赤らめながらも早苗はなんとかそう言うと急いでお風呂に入ってシャワーを浴びるが、いそいそと出て来た若妻を幸人はそれから暫くの間は片時も離さなかった。


 神々から頂戴して来た神宝の一つである“時の涙滴”を発動させた彼はその効力の続く限り彼女の事を抱いて抱いて抱き続け、早苗が気絶してしまった後もあらゆる体位で以てずっと犯し続けたのである。


「ごめんなさい、幸人・・・」


「えっ?何が・・・」


「私、あなたの事を下に見てしまっていたの・・・」


 青年が漸く満足してバスマットレスの上で横になり暫く休んでいると、その傍で寄り添うように寝かされていた若妻がいつの間にか目を覚ましており、なんとか気力と体力とを回復させたのだろう彼女が彼に語り掛けてきた。


「子供達が生まれて、あの子達を上手くあやす事が出来ずにいたあなたの事を、いつの間にか見下してしまっていたんだわ。自分がいないとあの子達はダメなんだと思って、得意になってしまっていたの。本当にごめんなさい、酷いことを、いっぱい言っちゃった・・・!!!」


「あはは・・・っ。早苗、気にして無いよ・・・!!!」


 しおらしい態度で自分の素直な気持ちを吐露して来る“幼馴染の花嫁”に対して幸人はわざと明るく言い放った。


「知っていたんだ、僕は。前に言っただろ?先達連中から色々と聞かされたって・・・」


「・・・うん、ねえでも。本当に怒ってないの?」


「怒ってたら君の事をこんなに抱いたりしないよ?早苗。それに君だって僕の事がまだ好きでいてくれたからこそ、ここまで抱かせてくれたんだろ?」


「それは・・・。うん、そうだけど・・・!!!」


「早苗、おいでよ・・・」


「あ・・・」


 そう告げると幸人は早苗の肩を優しく抱きつつ、その肢体を自らの肉体へと寄り添わせる。


「可愛い、早苗。すっごく可愛くて、とってもキレイだ・・・っ!!!」


「・・・幸人」


「ねえ早苗、これからも嫌じゃなかったら。僕に抱かせてくれないか?」


「・・・・・っ!!!嫌、なんかじゃっ。でもあなたは」


「僕はね?早苗、君の事が一番大好きなんだよ。子供達よりも誰よりも、君が一番大切なんだ。怒っている君も笑っている君も、君と過ごしている時間の全てがキラキラと眩しくて僕にとっては宝物なんだよ・・・?」


「・・・・・っ!!!」


「でも、できたら君にはずっと傍で笑っていて欲しいな?早苗・・・」


 その言葉を聞いた途端に、早苗は夫に抱き着き“え~ん”、“え~ん”と大泣きしてしまっていた、それは申し訳なさと感謝と彼の暖かさとに心が打ち震えた故のモノだったのだ。


「ヒッグ、グス・・・ッ。う、うう・・・っ!!!」


「・・・落ち着いた?」


「グス、ウェ・・・ッ。う、うん・・・っ!!!」


 花嫁が落ち着くまで青年はずっと彼女を抱いたままあやし続け、慰め続けていた、そんな彼の優しさに感極まって若妻はまた泣いた、泣いて泣いて、泣き濡れたのだが、それが漸く済んでからー。


 早苗は幸人に告げた。


「私は今、やっと自分が誰を本当に愛するべきなのかが解ったわ?ううん、違うの。本当はね?ちゃんと最初から解っていたんだ。だって私は胸の奥底ではいつもいつもあなたの事を思い続けて、ずっとずっと感じ続けて!!!いつかまた、こうなれる事を待ち焦がれ続けていたんだから・・・っ❤❤❤❤❤」


「早苗、それって・・・!!?」


「それだけじゃない。自分が真に寄り添うべき相手が誰なのか、と言う事も・・・。いま改めて、ハッキリと解ったの。理解出来たのっ!!!それでね、幸人。あの、その・・・っ❤❤❤❤❤これからも、よろしくお願いします・・・っっっ//////////////」


「・・・ああ。よろしくね、早苗っ!!!」


 中々照れ臭そうにしつつもしかし、本心から一生懸命に綴られる若妻の言葉に力強くそう応えながら。


 青年は内心で会心のガッツポーズを取るモノのその日以来、早苗は花婿への“確かなる気持ち”と共に夫婦で愛し合う事の素晴らしさとその快楽とを思い出し、改めて本来の自分自身を取り戻していったのである。


 そしてそれ以降、花嫁の夫に対する態度は豹変して行った、彼女は幸人の雄々しさや逞しさ、何よりその凄まじさをここに来て再び直に体感する事により彼の事を見直すと同時に大いに惚れ直していったのだ。


(セックスって偉大だなぁ・・・!!!)


 “幼馴染の花嫁”の自分へのわだかまりや溜まりに溜まった負の思いを見事に氷解させる事に成功した幸人は胸の内でつとにそう感じていたのだがやはり、必ずしも“セックス=愛”では無いにしてもしかし、最高の愛情表現の一つである事には違いない、と言う事を今回の体験を通して重々思い知らされた格好である。


 当然、彼はこの後も更に早苗としとねを共にして愛情を確認し合い、彼女の自身に対する熱い思いをより一層燃え滾らせては関係を修復させて行った、“情けは人のためならず”と言い、かつまた“誠意を尽くせば必ず思いは伝わり願いは叶う”と言う事を再確認させられた、麗かな日和の午後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る