フリーマーケット



 探してたツルハシがこんな場所で買えた。しかも貝殻の写真立てまでサービスでもらえた。

 嬉しい。

 そして飴までくれたもんで気分は町を走るロッキー。


「ありがとう。おばあちゃん」

「どうもね~」


 次の店に行こうとして、隣に男。

 変なダボッとしたファッションに茶色のパーマがクルン。

 首にヘッドホン下げて肩にラジカセ載せてる。


 店主のお婆さんは、「あなたも飴をどうかしら?」

 袋を差し出し、ニコニコと尋ねた。


「こっちは全部千円。こっちのは二千円。なにか買ってくれたらこの籠の中の物はサービスよ?」


 男は急にラジカセを置いて、腕組んで仁王立ち。


「……いらねぇ」

 

「え?」



「いらねぇっつったんだよ!」

 言うなりポケットからマイクを取り出し、口に当て、

「えいよー、ei-yo」



 ……栄養?




 急に縦ノリしだすパーマ男。


 そしてまた、「ei- yo」



 ……?


 今度は「DJスピン」と言って足元のラジカセをポチッ。

 シャー、という助走の後にずんちゃずんちゃ鳴りだす。



 ……?


 パーカーのフードをかぶり、音に合わせてまた「ei-yo」



 栄養?



「――飴鳴らし カランコロン?

 ひまじゃねぇ俺は アランドロンみたいにカリスマ

 垂れ流し さわかんだろ?」



 は? ……ラップ? なんで?



 男はお婆さんの周囲をウロウロしながら、

「くそまずい ノド飴 

 に趣味の悪い フォト立て? 

 俺の探す 矛盾ほこたてがドコにあんだくそばばあ?」



「あ?」お婆さんの目が変わった。



「言いてぇ 事あればマイクとりな この場で。 yo-」



 腰の曲がったお婆さんがヒョイと立ちあがる。頭の位置は相当下だが、そこから睨む目は鷹みたいに鋭かった。


 ラジカセをキュルキュルいじり、杖を捨ててマイクを取った。 

「よ~。よ~」


 そして揺れるお婆さん。



 え?




「気持ち悪ぃ 外っぱねが 

 バトル挑む この場で?」


 お婆さんは左手を伸ばし、男のパーマの側頭部にふわっと触れた。


「ケチなライムなんか 届かねぇぜ 

 ただのお古 もろばれ 」


 眉根を寄せて、手を3にして上下に振る、


「口ひらきゃババアの屁みてな意味のねえ 音当て

 は鼻をつまめばただの そよ風

 言葉で 通じないなら書いてやるよ

 卒塔婆そとばへ」


 そして男に中指を突き付けた。


「いっちょ前の おこった目、下げろ

 殺さね えとわかんねえのかとっととうせろや ボロ負けの このハゲ」



 fuckと吐き捨てて、お婆さんはマイクを地面に捨てた。


 男の投げた『この場で』をお返しするような、怒涛の韻。



 途中で畳みかけた所なんかお婆さんが二人に見えた。



「……」



 男は静かに泣いていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る