ニャン権宣言





 最近うちのタマがうるさい。


 家族がそろった食事時にふらっと現れては、何かをニャーニャー訴えて、またどこかへ消えていく。


 変だ。不思議だ。


 餌に文句があるのだろうか? この狭い家が不満なのだろうか? そんな事を今さら?


 いまいちピンとこない……。


 だから、猫語が分かる首輪を購入した。ネット通販で。



「面白いから賭けをしよう」

 父さんがそう言った。


 母さんもノリノリで、

「私はやっぱおやつだと思う。チュールを増やせって言ってるんだよきっと」

 なんて言ってる。


 父さんは、

「どうせ他所よそに好きな女の子でも見つけたんだろう。だから夜も外に出してとか、そんな事いってるんじゃないか?」に、一票。


 二人はそれぞれベットした。


「お前はどうだ?」


 勝てば追加のおこづかい。


 真剣に考えてみる。


 最近、確かに外出が増えたタマ。お隣の猫と過ごす姿をよく見かけるし……。


「う~ん。じゃあオシャレとか? 首輪変えて欲しいのかも」


「なるほど」


 さあ、答え合わせの時間。


「タマこれつけて」


 捕まえて抱っこしたら、抵抗もなくミョーンと伸びるタマ。


 首輪をつけて、スイッチを『ピッ』。



「ニャー」が『わっつ?』と翻訳された。


 効いてる。この機械、デキる!


 でも謎英語……。


「なにこれ?」


「ニャー」

『ごー ばっく』


 うん? ……うん。


 道をあけてあげたら固まるタマ。


「ニャ、ニャー?」

『ゆー あんだーすたんど?』


「え? ……うん」

 わかるよ。そういう機械だから。


 そして溜め息のような「ニャール」

『ふぁいなりー……』


 ……?


 突然、ピョンと跳び上がり空いてた椅子に乗ったタマ。


 何やら神妙な様子。猫なのに。


「で、……タマは何が欲しいのさ?」


 一体今まで何が欲しくて訴えていたんだろう。その答えがようやく分かる時が来た。


 ニャッ『おほん』と咳払い。猫なのに。


 それをあんぐり見つめる父と母。



 タマはテーブルに両手をついて。

 椅子に腰かけ真っ直ぐな猫背で、いつものアレが始まった。


「ニャーニャーニャーン」

『があーばめんと おぶざ たま』


「は?」


 それはまるで演説みたいに大きく口を開けて、「ニャーヌ」

『ばいざ たま』


 部屋の向こうを見ながら、「ニャーウ」

『ふぉうざ たま』



「……」


 全員賭けは大外れ。


「……なんでリンカーン?」と母さん。



「……あ!」


 最近隣のアメリカンショートヘアの女の子とつるんでたからだ!


「ニャー!」

『あい はぶ あ どり――』



「選挙権なんかあげれるか! お前まだ3才だろ!」







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