第三章 兄弟姉妹

「また電池なんか並べている。そんなゴミ捨てちゃいなよ!」


 綺麗に並べた使用済みの電池を、眺めている僕の背後から、からかう様に誰かが話しかけてきた。


 「どうせ使えないんでしょ?」


 彼女は、僕を理解不能な存在だと言う様な態度だ。僕の頭に肘を置き、ニヤけた顔をこちらに近づけてくる。


 髪は腰まで伸ばし、褐色に焼けた肌、寄れたタンクトップが肩から外れ、気が強そうな二重の吊り目。そして、目尻にホクロがあるのが印象的だ。


 「フン。どちら様ですか? 人の物をゴミなんて言う、人でなしは僕の知り合いにはいませんのでね。」


 「えー、冗談じゃん。メッキ君は可愛いから、ついつい意地悪しちゃうんだよ。」


 「まったく。あなたはいつもそうだ。」


 「ひどいなぁ、機嫌直してよ。私の美しさに免じてね。お願い。」


 彼女は僕たち兄弟姉妹の上から数えて一番目の長女だ。幼い頃からいつも意地悪なことばかりして来る、サディストの異常者だ。


 彼女は相対的に女性の美しさは持っているのかもしれない。


 物が置けそうなほどの豊満な胸に、だらしない服装とは裏腹に、腹筋が薄っすらと浮き上がるほど、引き締まっている腹回り。高い身長は、未熟な精神で、幼い言動をする様な女性だとは思わせない。


 このような見た目は、確かに男性なら魅力的に見えるだろう。その美貌から、傲慢な態度を取っても許されるのだろう。


 家族以外には。そんなもの姉弟の僕からしたら、ただの脂肪の塊でしかない。そんなものでは、僕は誤魔化されないからな。


 僕はいつも犠牲になっている。幼少の頃、おもちゃを取り上げられた事。半ば無理矢理女装をさせられた事。母のメイク道具をダメにしたのを、全て押し付けられた事。最近は自身の成長した身体を使い、僕の反応を楽しんでいるのか、この様な幼稚な事を毎日仕掛けてくる。


 僕はささやかな復讐として、名前を呼んであげないことにしている。


 「ねぇ聞いている? 無視されるなんて、お姉ちゃん悲しいなぁ。」


 彼女は僕の目の前で、身体を左右に揺らし、それを後から追いかけるように、視界の端で無駄に大きい胸を左右に揺らされるのが、とても目障りだ。


 「あ、今おっぱい見ていたでしょ? いやらしい。」


 「はぁ!? 見ていないけど。変な疑いを掛けるのはやめろ。」


 「えー、ウソだぁ。絶対に見ていたでしょ。恥ずかしがらなくていいのに。隠す方が逆に怪しいよ?」


 「……視界の端に見えただけで、こっちも見たくて見たわけじゃない。」


 「フフッ」


 彼女はニヤリと口角を上げ、勝ち誇ったかのように笑みを浮かべた。


 「やっぱり見ていたんだ。メッキのえっち。」 


 彼女は胸を腕で多い、肩を抱き寄せた。わざとらしく口を窄め、こちらを怪訝な目をじっとり向けてくる。


 ……こいつ殺してやろうか。先ほどまで十数年の人生を振り返り、感傷に浸っていたのに台無しだ。


 そもそも勝手に薄着で揺らしていた癖に、この言い草。


 そんなに見られたくないのならば、土管でも被り、一生涯、その胸から腰まで平にしておけばよかろう。


 誰が姉の身体なんぞに、欲情できると言うのか。全く。


 「うるせーぞ! 姉貴! メッキも困ってんだろッ!」


 話が聞こえていたのか、近くでゲームをしていた次男が怒ってきた。彼は、上から数えて三番目。私の一つ下に当たり、ゲームが好きで、毎日狂ったようにしている。


 彼女は次男の怒鳴り声に、すかさず怒号を返す。


 「誰に口を利いているんだ! メッキお兄ちゃんだろッ! ってか私もお姉ちゃんと呼べ!」


 怒るとこはそこなのか。


 「お姉ちゃんなんて呼べるかよ!ガキじゃあるまいし。」


 「あらー。最近までずっと私について来て、お姉ちゃん大好きだって毎日言っていたのに。いつからそんな反抗期になったの?」


 やれやれと首を傾げ、煽るように顔の前で手をひらひらとさせた。


 「うるせーよ! そんな昔の話なんて覚えてねーよ! ばーか!」


 その手をすぐさま払いのけ、顔を真っ赤にして言い返した。


 「全く。悪口が幼稚ね。」


 彼女は両目を閉じ、やれやれとため息交じりに答えた。


 「姉貴は嫌味ばっかだな。そんなだから、メッキにも避けられるんだぞ。」


 「メッキお兄ちゃんでしょ! ってかメッキ君は私の事を大好きなんだから!」


 「いやぁどうだか。姉貴からのアプローチはメッキには届いていない様にみえるけどな。」


 「お前が生まれる前から、メッキと一緒にいるんだから。そんなわけないでしょ。」 


 「そんな変わらねぇだろ!」


 「四年も変わるんだから、変わるわよ!」


 こんなやかましい口喧嘩の応酬も、日常茶飯事だ。


 僕の事を好いてくれているのかもしれないが、どちらも絡むと面倒なので傍観に徹する。どちらかの味方に付けば、一ヶ月は拗ねて、何かにつけ嫌味を言ってくるのだ。そうなれば非常にめんどくさい。


 この狭い家の中の雰囲気が悪くなり、こちらが積極的にご機嫌を伺い、楽しませねば、イライラは家族全員に伝播し、決まって父が怒鳴り、喧嘩両成敗として、全員が頭に拳骨や、その身に体罰を科される。


 それを避けるためには、関わらない方がいいのだ。


 ここ最近の彼は、彼女にこの様に突っかかり喧嘩を仕掛けている。


 思春期に入ってから、彼は女性との関わり方がわからなくなっている様で、こうした反抗でしか会話できないのだ。まぁ当の彼女も喧嘩を楽しんでいる様だが。


 巻き込まれる僕の身にもなって欲しい。


 しかし、それも仕方ないのかもしれない。


 僕達兄弟姉妹は、孤児でしっかりと親からの愛情は貰えていなかったからだ。それは親も例外ではない。


 

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