ハレオト♪番外編

まほ@ハレオト

ハレオト♪番外編Vol1 りえとまほの休日

りえは、鏡の前で服を合わせていた。

黒髪ロングの頃なら、似合う服はすぐに選べた。けれど今は――銀色のショートヘア。

「うーん……この色だと、こっちの方がいいのかな?」

鮮やかな色は映えるけど、少し派手すぎる気もする。落ち着いた色は大人っぽいけど、地味に見える気もする。

髪を触りながらため息をつく。新しい自分に、まだちょっと慣れていない。

「まあ……今日はこれでいっか」

決めたような、決めきれないような心境で外へ出た。


楽器店に寄ると、目が自然とベースに吸い寄せられる。

「やっぱり、このモデルがいいなぁ……」

展示されていた一本に視線を止めながら、胸の奥で静かに鳴る音を想像する。

ネックに触れた瞬間、胸が高鳴り、思わず「これください」と声をあげたくなった。


その足で街を歩き、ふと看板に心を奪われた。

「あ、ここのアイス、有名なんだよね」

甘い誘惑に負け、ひんやりしたソフトを手にする。


「おっとっと!」

溶け始めたアイスが危うく傾きそうになって、慌てて手を支える。通りすがりの人がクスッと笑って、りえは顔を赤らめた。

「ふぅ、危なかった〜……」


――そのころ、まほは公園を散歩していた。

木漏れ日が頬に落ちて、風がやさしく髪を揺らす。

「なんか、お父さんのギター思い出すな……」

ふっと浮かんだ記憶に、胸の奥があたたかくなる。


街に出て、ショーウィンドウの洋服を眺める。

「わぁ、可愛い……」

次の瞬間、値札を見て固まった。

「た、高っ!?」

思わず声が出てしまい、慌てて周りを見渡す。赤くなった顔を隠すように、足早にその場を離れた。


その後、楽器店に足を踏み入れると、エフェクターの棚に釘付けになった。

「ボタン多すぎて、ぜんぜん分かんないや……でも、触ってみたいなぁ」

目を輝かせながらつぶやく。知らない世界に一歩足を踏み入れた気がして、胸が高鳴った。

次の瞬間、値札を見てまた固まった。

「えぇぇ~、これも高い!?」


学生風情には簡単に買えないなと、まほはため息をついた。


やがて喫茶店に入り、少し緊張しながらカウンターに立つ。

「えっと……カ、カフェラテください」

噛んでしまった言葉に、自分でも笑ってしまう。


――ほどなくして、ドアが開いた。

「まほちゃん!」

りえが手を振りながらやってくる。まほも嬉しそうに立ち上がった。


二人の前にコーヒーが並ぶ。ひと息ついて、りえが話し出した。

「そういえば、今日ね、あそこの有名なアイス食べたんだ」

「えっ、私も前に食べたことあるよ!」

まほは少し照れながら笑った。

「でもね……私、一個落としちゃったんだよね」

するとりえも、はっと思い出して吹き出した。


「え? 私も危うく落としそうになったよ!」

「ほんと? りえちゃんも?」

「うん、でも私は手で支えたから落としてないけどね!」


二人は顔を見合わせて笑い、テーブルに軽く突っ伏す。笑い声が喫茶店の空気を柔らかくした。


しばらく笑ったあと、りえがぽつりとつぶやく。

「こうして普通に会えるのが、なんだか特別に思えるんだよね」

「うん……分かる気がする」

まほも頷く。


「今度は、みんなでアイス食べたいね」

「うん、あのアイスたまちゃん絶対落とすよ」


そういって二人は笑いあった。


カップを置く音が、休日の終わりをやさしく告げていた。

窓の外の夕暮れが、ふたりの笑顔をやさしく照らしていた。

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