第3話
「……目覚めない」
大きな鏡の前に立ってほっぺたをむにぃ、と引っ張った。結構強い力で。ほっぺたを離したらそこだけ赤くなっていた。いたい。
一週間経っても、俺はまだ元の世界に戻れていなかった。なぜ!
……もしかしてだけど、これってうちの妹がよく話していた転生ってやつか?現代に疲れた社会人がトラックに轢かれて、異世界にってやつ。
トラックに轢かれた覚えはないが、それ以外は大体合ってるな。……え、俺まじで転生したの?この可愛い少年に?いや、ほんと困るんですけど!?
「フェリオ様。まだ熱が下がっていないんですから、ベッドから出てはだめですよ?」
めっ!と可愛く注意するカテリア。俺はコクリと頷き、よろよろとベッドに戻った。
この身体、本当に本当に身体が弱かった。あれから一週間経ったが、平熱になった日がないとかいう始末。常に熱に苛まれている。
これって、結構心折れるんだよ?常に身体重いしだるいし、あたまいたいし。昼間ずっと寝てるから、変な時間に起きちゃって、夜中眠れなくなって鬱々とする。そんな悪循環。
ベッドから出るのは自主的に鏡を見に行ったり、トイレに行く時、お風呂に入る時くらい。ご飯は、部屋に運ばれてきてベッドで食べるし。えっ?引きこもり生活し過ぎでは?
「ねぇカテリア。俺の弟たちに会いたいんだけど」
「申し訳ありませんが、まだだめです。一歳になったばかりのお二人です。もし熱がうつってしまったら大変なことになるかもしれません」
「……うん。そうだよね。ごめん」
「いえ。熱が下がったら会いに行きましょうね」
俺はこくりと頷いた。
俺が2人に会いに行きたい理由。俺の弟妹、テオルドとソフィアは、将来ギロチンにかけられ、処刑される運命にあるからだ。
ゲーム内での2人は本物の悪だった。
ソフィアはヒロインに嫉妬し、いじめるだけでは飽き足らず、暗殺を試みたり、毒を仕込んだりと、処刑されても仕方ないことばかりを繰り返した。
テオルドは、ソフィアの命令を一寸狂わずに行う、処刑人だ。ソフィアを守れるのは自分しかいない。テオルドはソフィアを愛していた。それは、家族愛を超えた狂愛に近いほどに。
ソフィアもまたそんな彼を必要とし、甘えきっていた。
歪んだ共依存に2人は気づかない。ついに悪事を暴かれた2人は、一緒に処刑された、と言うわけだ。
物語はこれでハッピーエンド。俺もゲームをやっていた時はなにも考えずに悪役処刑してたんだけどなぁ。
悪役にだって、過去はある。なぜ共依存のような関係になってしまったのか。ソフィアの暴走を、テオルドはなぜ止められなかったのか。それは、スピンオフで明かされた。
テオルドとソフィアには、病弱な兄がいた。
両親は病弱な兄のことで心を病み、意見の相違により仲が悪くなる。家庭はギズギズで崩壊寸前なのに、愛情は全て兄に注がれる。甘々に甘やかされて育った兄とは打って変わって、二人は厳しく躾けられた。
3歳から始まった、秒単位でこなすスケジュール。それでも褒められようと頑張るも、そのくらい公爵家なら当たり前だろう、と褒められない。失敗したら、情けないと叱られてしまう。
片や兄といえば、一日中寝てばかりの怠け者。それなのに、両親の愛情はたんまり注がれる。使用人も、手のかからないテオルドとソフィアはそっちのけで、兄の心配ばかりするんだ。
大きなお屋敷で二人ぼっちのテオルドとソフィアのスチルは、胸を打たれたものだ。
こんな環境では、2人が歪んでしまうのは当たり前のことで。
まぁつまり。2人が悪役になった原因。100ぱーおれなんだよなぁ!!しれっと家庭崩壊も引き起こしてるしね!?!?
しんどい!!!おうちかえらせて!!
「……きゅぅぅ」
「うわー!どうしようフェリオ様の熱が急に上がった!お医者様〜!!」
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