もしも、織田信長に出会ったらどうしましょう?

秋鷽

第1話

「もう日が暮れちゃったなぁ」


はぁ、思わず口からでちゃった。

久しぶりの京都で、色々な所を回っていたら、こんな時間だよ。

雨は降っていないし、付く明かりがあるし、問題ないけどね!


「ふふんふふふぅ~♪」


鼻歌がのっているぜ!

あれ、そう言えば此処らへんって、織田信長が討たれた本能寺があった場所だよね。

そうそう説明書きあるよね。

ここで信長さんが討たれたのか、どんな状況だったんだろう……ま、良いか、帰ろう。


「!?」


あれ、何か目の前が一瞬歪んだ気が……

なんだろう、あれ、住宅街だったよね。

なんで、篝火が!?


「何奴!」


へ、後ろを振り返ったら、やり持った兵士がいるんだけど!?

太秦に来てたっけ!?

あ、頭が混乱する!?


「動くな!」

「は、はい!」


ち、近づいてくるけど……顔は普通のおじさんだけど。

具足だよね、って、観察している場合じゃない!?

どっきりじゃないよね。


「お前は何者だ!何しに此処へ入って来た!」

「あ、歩いていたら迷い込んで……」

「嘘を言うな!ここは警備している者たちもいる、おいそれと迷って入ってこれるわけがなかろう」

「で、でも本当ですよ!」

「嘘をつくな!どこの家のものか!」

「違いますって!本当に迷っただけですって!」

「まだ言うか!」

「そんなこっそり忍び込んでいたら、こんな目立つところに居ません!」

「なんだ!その胸をそって、鼻を膨らませて、堂々と!」

「本当なんですって!」


駄目だ、信じてくれない。

此処で捕まったら、投獄されて殺害されそうな雰囲気だ……あれ、これって、神隠しなのかな。

未来から過去への……おお!?実体験できるなんて!?


「ひゃっはー!」

「な、なんだ急に笑い出しおって!」

「どうかしたのか」


あれ、建物の中から誰か出て来た。

若いな……高校生ぐらいかな?

顔は薄暗いけど、うーん現代ではそこまでじゃないだろうけど、この時代なら整っている感じかな?


「はっ!森様」

「そこの者は」

「いつの間にかそこに居て、怪しいものとして捕えようとしていたところです」

「ふむ」


わぁ、首を傾ける動きが様になっているなぁ。

現代だったらアイドルに居てもおかしくなさそうだけど。


「そこの者」

「はい!」


あれ、眼を見開いた、返事しただけなのに。


「ふむ、女子か」

「そうです!」

「忍びの者かと思ったが……」


声が小さくて聞こえずらいけど。

忍者と勘違いされている?


「どうした、乱」


新しい登場人物が!?

乱?

はて、聞いた事のあるような……。

頭を下げていると言う事はえらいさんかな?

びっくりした、横を向いたら兵士はその場で平伏しているし!?


「殿」

「その者は」


こ、こっち見たよ。

うわ、神経質そうな顔だな。


「なんだ、馬鹿にしたのか」

「していません!新駅室そうだと思っただけです!」


あれ、おじさんはびっくりした表情してる……あれ、こめかみ動いてない?

平氏はびくって動いて、お兄さんは目を細めているけど、口の端が引くついている?


「よう言うたな!ここで首を刎ねるか?」

「ご、ご遠慮します!」


おお、殺気が!殺気がきてます!感じますよ!


「殿」


お兄さんの一言で、おじさんの怒りが!


「遊ばれませんように」

「ふん!まあ、よい」

「で、お主、何者だ」

「いや、先ほどもそこの人に話したんですが、歩いていたらいつの間にか目の前が歪んで此処に来たんです。神隠しにあったように」

「神隠しだと……ふん、そのようなものあり得ぬは」

「確かに、私もあり得ないと思っていましたよ。自らに起きるまでは……はぁ」

「面白い」


あ、なんか悪だくみをしそうな笑い方!?


「飯は食べたか」

「いえ」

「ならばよい、乱、こやつと飯を食う用意せよ」

「殿」

「分かっておるが、こやつの面を見て、醸し出す雰囲気は無防備すぎる」

「忍びならば」

「違うぞ、乱。あ奴らはいくら気配を変えたり、消しても血の匂いは消えぬ。この者には一切感じない」


お兄さん、深いため息をしてる。

苦労しているんだろうなぁ。


「分かりました。そこの者こちらに来い。その荷物も預かる」

「あ、これは流石に預けれません」

「何?」

「あとで中身を説明しますが……」

「乱、かまわん」

「分かりました……誰かおらぬか!」

「はっ!」


早い、呼び出してから早くないか?!


「夕餉の用意をせよ、二人分」

「いや、三人分だ、お主も一緒に食え」

「分かりました。そのようにせよ」

「はっ」

「お主はこちらに来い」

「分かりました!」


とりあえず靴は靴袋に入れて持っていくかな。

置いておいても良いだろうけど……、ちょっと、心配だから!






流石に暗いな、菜種油とかを使った明かりか。


「お主、酒は飲めるのか」

「少しは飲めますが、今は願掛けで飲んでません」

「ほぉ、何を願っているのか」


この状態でお酒は飲めないから断ったのに……。


「フィールドワークをしているので、それが終わるまで」

「……なんだ、それは」


まずい、いつの時代か分からないけど、フィールドワークは伝わらないか。


「民間伝承や、地域の伝統などを調べて、書にまとめようとしていまして」

「それを調べて、どうするんだ?」

「未来へ記録を残すためです」

「未来へ?それをして何の意味があるのだ」

「伝承など、伝わるものは刻が過ぎれば、元の内容が分からなくなるほど変わることがあります。また、伝承を伝える人がいなくなれば、その伝承は消えていってしまいます。なので、それを纏め残す事で、未来の人たちが伝承を知ることができるようにしたいのです」

「ふむ、だがそんなことをしても意味がないのではないか」

「まあ、人によると思いますが、一種の学問ですね」

「学問か」

「はい、古今伝授のように過去から未来へ正しいものを伝えるのと同じです」

「公家共がやっている事か」

「そんな高尚な事ではないですが、民衆が何を考え、何を思い、何を祈っていたか。伝承や地域の神話、妖怪などの中にも何かが作られた当時の答えがあるか、考察する事が出来るのです」

「そうか」


微妙な顔されているなぁ。


「お前は公家の出か」

「いいえ、庶民ですが……」

「殿、用意が出来たようです」

「そうか」


おお、食事が運ばれてきた!?

ご飯だごはん!


「まあよい、その袋も含めて、食べた後で話しを聞こう」

「はい!頂きます!」

「なんだ、それは、手を合わせて」

「食事を作ってくれた人、その材料の米などを作ってくれた人、そして、神様にお礼を言っています。あ、あなたにもありがとうござす」


頭を下げて、頭を上げたら微妙な表情をしているんだが、解せぬ。


「ふむ、まあいい、では食べるか。乱も食べろ」

「はっ」


おお、なかなかおいしいな。

ちょっと味が濃い気がするけど。

美味しいおいしい。


「楽しそうに食事をするな」

「え、そうですか?でも、おいしいものを食べるとうれしいじゃないですか」

「ふん」


あれ、ちょっとはにかんだ?

いいか、食事に集中集中、むしゃむしゃ。






膳が全て出された……おいしかった、これでデザートがあれば……


「ところでだ」

「はい?」

「此処がどこか分かっているのか」

「うーん、確か本能寺跡を歩いていたら、此処に来たんです」

「……跡だと」

「はい、私の知っている場所は、そうなんですが……」

「そうか……で、わしが誰か知っているのか」

「お殿様?」

「そうなんだが……」


困った表情をしてお兄さんを見ているんだけど。

自己紹介もないし、わかんにゃいよ!

ん?本能寺?本能寺だよね、まさかね……


「なるほど、どう思う、乱」

「嘘は言っていないかと」

「そうか」

「乱……お乱……まさか、乱丸さん」


右の眉がぴくっと上に動いたの初めて見た。

本当にする人いたんだ!

いや、そうじゃないそうじゃないな!


「乱を知っているのか」

「ははは、という事は、まさか……」

「ん?」


此処は土下座の一手!!!


「織田様とは知らず、ご無礼を!」

「ははは、面白いなこやつ、乱よ!」

「はい……はぁ」

「そうか、そうか、知っておったのか。今まで気が付かないとはな!」

「無理ですよ!分かるわけないじゃないですか!顔も知らないのに!?」


何か楽しそうに笑っているだけど、顔が真っ赤だよ。

確かに本能寺、乱ってなったら気が付かないとか……

いや、気が付かないよ、やっぱり、いつの時代かも分からないんだから、うん、僕は悪くない!


「父上」


誰か襖あけて入って来た。

新たな登場人物ぅ!!!

父上って言っていたら、信長さんのお子さんか、誰だろう?


「勘九郎か」

「随分と楽し気に笑っておられましたが、この者は」


目を細めて見られてる、疑われているなぁ。


「迷い猫だ」

「猫とは……」

「ん、乱よ」

「はい」

「名を聞いていたか」

「そう言えば、聞いておりません」

「はぁ、乱よ、お主が付いていながら」

「申し訳ございません」

「で、お主の名は」

「諸星めぐるです」

「諸星、ふむ、滋野か、武田の一族か」

「いえ、由来は知らないです」

「武家、公家の血筋か」

「庶民です、正真正銘の!」

「ならば何故、苗字があるのだ?」

「親に聞いてください……どこに居るか分からないですが」

「そうか」


苗字がどうのなんて知りません!

そう言えば、苗字がない人が多い、地名を取って名を言う人も居る時代だし……

しかし、信長さんやさしいな、親がどこに居るか分からないって言ったら、憐憫の目で見て来たYO。


「はぁ、父上もほどほどに、私は宿舎に戻ります」

「そうか、気をつけてな」

「では」

「あのぉ」

「なんだ、勘九郎様って、織田様の嫡子の方ですか」


盛大にため息をつかれた。


「お主、言葉に気を付けろよ」

「はい?」

「父上が許しているから気にしないが、場所が場所だと、首を刎ねられる言動だぞ」

「ひぇ!?」

「はぁ、確かに猫だな。問いに答えるなら、その通りだ。これで良いか」

「は、はい!」


あれ?信長さん、信忠さんが本能寺にいる。

そして、日が暮れてから付いた。

あれ、これ、それ……


「ああああああああ!?」

「な、なんだ!?」

「静かにせよ!」

「落ち着け」


信忠さん、乱丸さん、信長さんが制止するけど、これって、まさか、まさか!?


「ち、ちなみに、今は天正ですか」


信長さん、大切な事なんです、眉を顰めないで!?


「そうだ」

「何年ですか」

「十年だ」

「うきゃぁぁぁあぁぁ」

「だから静まれ!」

「うがっ」


お、乙女に拳骨はないと思いますよ、信長さん!


「あ、あの!」

「なんだ」

「めんどくさいのは分かりますが、重要なのでお願います!」

「だからなんだ」

「明智さんは今どこにいますか!」

「十兵衛か、今は、禿ねずみの援軍に向かわせたが」

「ひゃぁぁぁぁぁ」

「うがっ」


だ、だから乙女に拳骨はないと思いますよ、信長さん!


「お、織田様!」

「「なんだ」」

「いや、二人とも返事……でも良いか!は、早く、此処から逃げましょう!」


三人とも眉をひそました。

それも当然だけど、当然だけども!


「どういうことだ」

「私が得体が知れないのは分かります!でも、信じてください!逃げましょう!」


必死に言っているためか、信忠さん、乱丸さんはうさん臭そうな視線を向けるけど、信長さんは顎を手でなぞって思案している。


「もし、何もなければ?」

「橋の上からバンジージャンプします!」

「は?」


鳩が豆鉄砲を食ったよう表情を信長さんがしている!

おお、写真に撮りたい!!!

いや、そんな事をしている場合じゃない。


「橋の上から飛び降ります。足に紐を付けて」

「それは、助かるのではないか?」

「何を言っているのです!橋の上からですよ!山間の高い場所にある端からですよ!恐怖じゃないですか!」

「顔が近いな、分かった、分かった」

「父上」

「殿」

「この者が言う事が正しいか分からん。が、わしはその言葉に従った方が良いと感じている」

「殿、それは明智殿が謀反を起こしたと言う事になります」

「得体のしれない者より、十兵衛の方が信用できると思いますが」


あ、二人の視線が厳しい!?

そんな性癖はないです!辞めてください!


「どこぞの間者が離間を仕掛けているだけでは」

「まあ、そうなんだが……この度の急な呼び出し、少し違和感があったのだ」

「違和感ですか」

「急すぎる事、そして、呼び出したものが未だに使者を出してこない事だ」

「ふむ」


信長さんの言葉に、信忠さんも思案顔になった。


「考えてもみよ、明日の件について、打ち合わせに来てもおかしくないであろう」

「しかし殿、明日の朝来られるかもしれません」

「であってとしても、呼び出しておいて、使者も出さないのはおかしくないか」

「……」

「よし、勘九郎、お前は美濃に戻り兵を纏めよ」

「父上」

「いけ」

「はい」


信忠さん納得してない表情で、私を睨みつけてる!?


「勘九郎」

「なんでしょう」

「命の危機は何度も起きて来た、その時、その場の直感で動いて難を何度も逃れてきた」

「それが今だと」

「そうだ」


あれ、外で物音が?

乱丸さんが刀を持って襖を開けた!?


「何者だ!」


庭に人が立ってる!?

あれ?お年寄り?


「ふむふむ、懐かしい匂いがしたから来てみたが、成程成程」

「貴様は、何処の手のものだ!」

「手のものか、ふむ、司箭院雪関でも名乗るか」

「司箭院雪関だと?」

「あれ、司箭院って、修験者、山伏で宍戸の出の人いませんでしたっけ?」

「ほう、お主、知っているのか」

「いえ、伝承とか調べていると、天狗の法というものを使う司箭院興仙という山伏いるんですよ」

「天狗の法か、まやかしだな」

「天狗ですよ、天狗。天の狗と書いて天狗」

「それがどうしたんだ」

「何であんな感じにしたんだろう、そうそう、あの源義経が学んだとか言われてますし、確か、司箭院興仙は細川政元の師匠と言われているんです。何かつながりあるのかな?」

「ふむふむ、成程成程、お主もそうか……首を傾げるな」

「あと、手に持っているのシタールですか?」

「そうだ、わが友から貰ったものだ」

「何故、インドの楽器が……」

「インドとは?」

「うーん、今で説明すれば、天竺ですね」

「天竺のものか」

「そんな目をしても友から貰ったものやらんぞ?」

「ふん、いらん。南蛮人にでも言えばもってこよう」

「そうだのぉ」

「で、お主は何しにやって来た」

「先ほども言った通り、懐かしい匂いがしたからの、縁も感じた故、忠告をな」

「わしらもいるが?」

「現世の些末な差異だ」

「そうか、ではその忠告を聞こう」


あ、なんか楽しそうに口がにやけてるよ、この爺様!?

悪戯っ子みたいだな!


「逃げよ」

「わし逃げよと?」

「いや、わしが言っているのは、そこの者であって、お主ではない。お主は好きにすればよい」


こめかみがぴくぴくしているよ、信長さん。

あれ、信忠さんも……似たもの親子!?


「ふん、そうか」

「お主、逃げ場がなければ鞍馬寺に来い」

「鞍馬寺……ああ、なるほど、天狗ですね」


にやりと笑ってる!?


「いや、こやつはわしが連れて行く」

「そうか、まあよい」

「別に害することはない」

「まあ、信じよう……では、またな」


わ、風で目が!?

って、いなくなってるぅぅぅ?!


「勘九郎、乱、出るぞ」

「分かりました」

「はっ」


あれ、何で、私の時は苦々しく嫌がっていたのに……泣いても良いかな?良いよね?


「めぐる」

「はい?」

「馬に乗れるか?」

「……乗れません」

「乱!」

「はい、お主が連れていけ」

「……はっ」


間があったよ!

嫌そうだな!

でも、私は気にしない!

馬に乗る!

そして、私は風になるのだ!






「内蔵助様!」

「どうした!」

「本能寺に誰もいません!」

「なんだと!」

「織田の旗が掲げられているだけです!」

「ば、馬鹿!?どこから漏れたのだ!探せ、探すんだ!遠くには行っていないはずだ!村井春長軒はどうなった!」

「京に居た、織田のものは一人もいません!」

「な、なんだと!!!」

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もしも、織田信長に出会ったらどうしましょう? 秋鷽 @Autumn-Bullfinch

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