毒百合は咲かない

もさく ごろう

第1話 毒百合は咲かない

 恋は猛毒だと何かで読んだことがある。いや、愛は猛毒だっただろうか。


 それを思い出して毒について調べたのはいつだっただろう。トリカブトのように美しい毒。毒蛇のようにおぞましい毒に、フグのように醜い毒。毒にも色々と種類があった。ただの女子高生であるわたしとっては、話のネタにもならない知識だけがついた。


 わたしには幼馴染みがいる。名前は美夕みゆ。高校生にもなってまだあどけなさが残る可愛い子だ。


 美夕は最近恋をしているらしい。相手のことはわたしも知っている。彼もまた、わたしの幼馴染みだからだ。彼からも同じような相談を受けた。その相手は美夕だ。


 二人の仲を取り持つため、彼の家に美夕と一緒に遊びに行った。美夕は緊張でガチガチだったので、わたしは常に美夕と彼の間に入った。


 美夕は恥ずかしそうにモジモジしていて可愛らしい。そして不安を解消するためか、わたしに寄り添うのだ。


 彼は「相変わらず仲がいいな」といって、わたしは「羨ましいでしょう」と美夕をわざとらしく抱き締める。幸せな時間だ。



 次の日、わたしは別の男子生徒に告白された。最近仲良くしている男子生徒だ。


 そしてその数時間後、女の子に刺された。颯夏さなという、こちらも最近仲良くしている女の子だ。きっと裏切られたと思ったのだろう。


 朦朧とする意識の中、わたしは颯夏を抱き締めた。そして男子生徒からの告白を断ったこと、颯夏を応援するために男子生徒に近づいたこと、今回のことはうまくごまかすことを告げた。


 颯夏はいつも自信に満ちているけれど、その男子生徒の話をするときだけ花のようにしおらしくなるのだ。



 大事に至らなかったわたしは、数日だけ入院することになった。お見舞いに幾人もの人たちがきてくれて、その中には彼や男子生徒もいた。でもその二人はどうでもいい。わたしは美夕と颯夏とだけ、二人きりで話すことにした。


 それぞれ話題は違ったけれど、彼とどうなったか、男子生徒とどうなったか訪ねると、二人ともこそばゆそうにしながら話してくれた。その姿はとてもいじらしく、可愛らしい。抱き締めたくなるのを我慢しながら、なるべく長く話を聞いた。


 この一番かわいい瞬間を、わたしの手の中に留めておくことはできない。いずれ二人も彼のもとへ、男子生徒のもとへと離れていく。けれど燃え上がるように輝くその瞬間を、どうにかして永久に抱きしめられないかと、わたしの心は欲している。


 わたしのこの想いが恋なのか愛なのか、それともまた別の何かなのかはわからない。ただひとつ確かなことがある。


 この想いは身と心を蝕む甘い甘い毒なのだ。

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