第3話

 

 数日後、事態は思わぬ展開を迎えた。

 氷室華がわずかな共を連れて城にやってきたのだった。


 夕凪の城。大広間にて。

 几帳の向こうから一人の姫が現れた。

氷室景虎の妹――氷室 華。

 その姿はまさに「雪に咲く白梅」の如く。

 薄紫の小袖を纏い、歩むたびに衣の裾が静かに揺れる。

その気品ある佇まいはただの政略の駒などではないと、神衣に強く印象づけた。


「初めまして、夕凪の御館様。氷室 華にございます」

 深々と頭を下げた声は落ち着きがあり、あわせて強い存在感を放っていた。


神衣は思わず息を呑んだ。

(……これが、氷室の姫か。兄・景虎に似た、鋭さを秘めていると聞いていたが)


 家臣たちは期待に満ちた眼差しを向ける。

「これは吉兆にございますぞ」

「姫様が夕凪に嫁がれるならば、両国は必ずや安泰に――」


 華は静かに直正を見据えた。

「この縁談、私も兄も遊び半分ではございません。殿にお仕えし、夕凪の民を、ひいては両家の民を守る覚悟はできております」


 その言葉に、大広間の空気が変わった。

――ただの政略結婚ではない。

彼女自身も、この縁を己の生き方として受け入れようとしているのだ。

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