カイルとエリナが婚約
王アルデンの城にて――
柔らかな陽光が大きな窓から差し込む壮麗な執務室。
王アルデンは山のように積まれた書類の前に座り、静かにペンを置いた。
彼の正面には、カイル、エリナ、ゼイン、そしてセルヴィアの四人が整然と並んで座っている。
部屋の空気は穏やかだが、どこか張り詰めた緊張が漂っていた。
王アルデンは息子を見つめ、優しさと厳しさを併せ持つ声で口を開いた。
「カイル……」
彼は指を組み合わせ、静かに問いかける。
「望んでいた魔法の属性は、もう習得できたのか?」
カイルは父の目をまっすぐに見つめ、落ち着いた声で答えた。
「はい、父上。」
そして少し間を置き、低く続けた。
「それに……とても危険な魔法も、もう手に入れました。」
その言葉に、王アルデンの眉がぴくりと動く。
「……なに?」
椅子から身を起こし、声の調子が僅かに変わった。
「危険な魔法だと? それは一体どういう意味だ、カイル。」
カイルはゆっくりと席を立ち、部屋の奥の大窓へ歩み寄った。
茜色の空が広がり、光がカーテン越しに彼の頬を照らす。
彼は窓の外を見つめながら、静かに手を上げた。
「見ていてください、父上……」
その瞬間、外を飛んでいた黒い鳥がぴたりと空中で動きを止めた。
次の瞬間、鳥はくるりと方向を変え、一直線に執務室へと飛び込んでくる。
軽やかに舞い降りたそれは、まるで意志を持つかのようにカイルの指先にとまり、頭を垂れて恭しく礼をした。
部屋の中が静まり返る。
王アルデンでさえ、驚きに目を見開いたまま言葉を失っていた。
「……見事だな。」
低く呟いたその声には、父としての誇りとわずかな畏れが混じっていた。
すると、静寂を破るように可愛らしい声が響く。
「すごい! お兄ちゃん、すごいよ! 鳥さんが言うこと聞いてる!」
声の主――リシアが小走りで駆け寄ってきた。
その瞳は純粋な輝きに満ちている。
カイルは彼女に振り向き、優しく微笑んだ。
「はは……あとで教えてあげようか?」
「ほんと!?」
リシアは嬉しそうに笑い、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「ああ、もちろんだ。」
カイルはそう言って、妹の頭をやさしく撫でる。
やがて黒い鳥はふっと光の粒となって消え、部屋に再び静けさが戻る。
王アルデンは腕を組み直し、深い興味を込めて息子を見つめた。
「さて……」
低く落ち着いた声が響く。
「今の魔法、何という名なのだ?」
カイルは一瞬言葉を失い、視線を横へ逸らした。
指先に残る微かな魔力の感触を見つめながら、小さく呟く。
「えっと……」
(まさか“運命魔法”だなんて言えるわけない……。
もし知られたら、父上は心配するだろうし……母上は、もう二度と修行を許してくれないかもしれない。)
彼の心の声は静かに胸の奥へ沈んでいった。
カイルは少し気まずそうに笑いながら、軽い調子で答えた。
「えっと……これはね、動物を従わせる魔法だよ、父上! ははは……」
室内の空気が一瞬で静まり返った。
王アルデンと王妃エレノーラは顔を見合わせ、ゼイン、セルヴィア、そしてエリナもただ困惑した表情を浮かべている。
小さな椅子に座っていたリシアまで、ぱちぱちと瞬きをしながら兄を見つめていた。
「どうぶつ……したがわせる……?」と小声でつぶやく。
カイルは頭をかきながら、頬を少し赤くした。
「あ、あはは……まあ、そんな感じかな……」
気まずい空気を払うように、カイルは姿勢を正し、真剣な眼差しで両親を見つめた。
「それより……父上、母上。」
声は静かだが、確かな決意がこもっていた。
全員の視線がカイルに集まる。
「俺……実はエリナと付き合ってるんだ。」
そう言いながら、隣に座っていたエリナの手をそっと握る。
エリナはビクリと肩を震わせ、顔を真っ赤に染めた。
「か、カイル!?」と慌てた声を上げる。
「な、なんだと?」
王アルデンは思わず席を立ち、目を見開いた。
室内の空気が一気に張りつめる。
一方で、王妃エレノーラは口元を押さえてクスリと笑った。
「まあまあ……うちの子も、もうそんな年頃なのね?」と茶化すように言う。
リシアはきょとんと首をかしげた。
「つきあうって、なあに?」
その一言で、場の全員が吹き出しそうになった。
部屋の端で座っていたゼインは肩を震わせながら小声でつぶやいた。
「ふふ……これは面白くなりそうだな。」
エリナは顔を真っ赤にしたまま俯き、カイルは後頭部を掻きながら苦笑した。
「まあ……確かに急に言っちゃったけどさ、でも俺は本気なんだ。」
その声は柔らかくも、しっかりとした意志を感じさせた。
王アルデンはしばらく息子を見つめたまま、やがて深くため息をついた。
「ふう……お前はまるで、若い頃の私を見ているようだ。」
そう言って、口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「だが……それならば、責任を取る覚悟が必要だぞ、カイル。」
「もちろん、覚悟はできてるよ、父上。」
カイルはまっすぐに答えた。
王妃エレノーラは小さく笑い、優しくエリナに目を向ける。
「そんなに緊張しないでいいのよ、エリナ。あなたはいい子だわ……カイルを見つめるその目で、すぐに分かるもの。」
「……あ、ありがとうございます……陛下……」
エリナは頬を赤らめながら深々と頭を下げた。
リシアはそんな二人を見つめながら、無邪気に言った。
「じゃあ、お兄ちゃんとエリナお姉ちゃんは、けっこんするの?」
その言葉に、再び室内の空気が張り詰めた。
王アルデンは静かに目を閉じ、そして重々しく口を開いた。
「だが……二人が付き合うことは許されない。」
低くも威厳のある声が響いた。
視線は真っ直ぐカイルとエリナへと向けられている。
「カイル、お前はこの国の第三王子だ。王国の許しなく、軽々しく関係を持つことはできぬ。」
静寂が広がった。
俯いたままのエリナは、唇を噛みしめる。
その瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。
(やっぱり……陛下は、そう仰ると思ってた……)
心の中で、彼女は静かに呟いた。
カイルはそんなエリナを見つめ、そして再び父を見据えた。
その瞳には、一片の迷いもない。
「ならば……」
一呼吸おいて、真っ直ぐに言い放つ。
「俺たちは――婚約します。」
室内が、再び沈黙に包まれた。
王妃エレノーラは思わず目を見開き、リシアはただぱちぱちと瞬きをするばかり。
そして、数秒の静寂のあと――
「ハッハッハッハッハ!」
王アルデンの豪快な笑い声が響いた。
「それでこそ我が息子だ! 男らしいじゃないか!」
そう言って、太ももを叩きながら笑い続ける。
王妃エレノーラも目を細め、優しく微笑んだ。
「エリナ……あなた、本当にカイルにぴったりの子ね。」
「……あ、ありがとうございます……陛下……」
エリナは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに微笑んだ。
王アルデンは勢いよく立ち上がり、大声で宣言する。
「よし! 今夜は祝宴だ! 王都全体に知らせろ!
第三王子カイルとエリナ嬢の婚約を祝う宴を開くと!」
「はっ! かしこまりました!」
扉のそばで控えていた近衛が深く一礼し、駆け出していった。
リシアは手を叩いて嬉しそうに笑う。
「わーい! お兄ちゃんとエリナお姉ちゃんがけっこんするー!」
カイルは苦笑しながら妹の頭を撫で、エリナは恥ずかしそうに俯いたまま頬を染めている。
王妃エレノーラはその光景を見つめながら、穏やかに微笑んだ。
「ふふ……これで、家族がまた賑やかになるわね。」
――そしてその夜は、アウレリア王国全土に語り継がれる、
若き王子と愛しき少女の婚約の夜となった。
「俺、転生したら魔術マニアだった件」 カイ・センパイ @Khairul
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