Ⅵ:ボンサイアート
10分足らずでタクシーはアパートに着いた。ポリネッソ公爵が自分に愛を打ち明けてきたダリンダを利用して、自分を振ったジネーヴラが想うアリオダンテを陥れてやろうというアリアを歌い終わるところだ。結局、3時間ほどかかるこのオペラの終わりで、彼は決闘によって殺されてしまい、企みは破綻してしまうのだが、俺はこういうあからさまな勧善懲悪的オペラで動き回る姑息な悪人役が大好きだった。俺達自身の内にある卑小な感情と欲望を代弁してくれているようではないか。それにしてもこのC-T《カウンターテナー》はいい歌い方をする。
俺は車内の料金投入口に紙幣を入れた。これも脳内サイバーアクセスでネット
通りの他は全て一戸建て住宅の立ち並ぶ中に俺の住む10階建てのアパートはあり、5月の遅い日没の到来の薄闇の中、周囲の家の庭からの、湿り気を帯びた草木と花に土の臭いの入り混じった濃い芳香が俺の鼻に届いてきた。目に付く何軒かの家の生け垣越しには、グロテスクなほど幹と枝が太く発達して、一本の樹の内で入り組んで絡み合った木が生えているのが見える。そのやたら太い枝と幹に比して3メートルほどと丈が低く、おとぎ話に出てくる大男の怪物のトロールが舌を出しながら棍棒を持った両腕を上に持ち上げて、その横幅の広い体をくねらせて天に向かって差し出しているような、奇妙な存在感の迫力があった。元々は日本の
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